オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

カランコロン、と下駄の音が響き、美咲と健太が肩を並べて現れる。

「汐莉、今日めっちゃ可愛いじゃん!」
顔を合わせた途端に、美咲がぱっと笑顔を見せた。

「だよな。なんか雰囲気ちがう」
健太も頷いて、にかっと白い歯を見せて笑う。

思いがけない言葉に、じわりと頬が熱くなった。

「そんなことないよ」
笑ってごまかそうとしたら、美咲が顔を寄せて、耳元でこっそりと囁く。

「……翼に会えるもんね」

「っ……!」
思わず驚いてバッと後ろに下がってしまった。

耳の裏まで熱くなるのが自分でもわかる。

健太が後輩を見つけて離れていったのを確認して、私は小さく声を落とした。

「み、美咲は……?」
もし美咲が翼のこと好きだったら、私はきっと邪魔者だ。

三人の輪に入ることが増えて、翼にドキドキすることが増えて、なんとなく抱いていた美咲に対する申し訳ないような気持ち。

「美咲は翼のこと……」
言葉にしかけた私の肩を、美咲が優しくぽんと叩いた。

「ないない。私、健太と付き合ってる」

さらりと言われた新事実に、私は目を見開く。

「気にさせちゃってたんだ。ごめんね、もっと早く言えばよかった」

申し訳なさそうにそう言う美咲に、胸の奥がふわっと軽くなった。

「じゃあ今日、ふたりっきりにしてあげよっか!」

美咲が楽しそうに口元を緩めるのを見て、私は慌てて両手を振り回した。

「ち、違うの。付き合いたいとかじゃないの」

本心だった。
翼と付き合うだなんて、考えたこともない。

ただ、翼が笑ったとき、その笑顔の隣にいられる自分でいたいって、そう思っただけ。

「えー!控えめすぎるよ、誰かに取られちゃってもいいの?」

呆れたように言う美咲に、胸がちくりとする。

どうせそのうち引っ越す訳だし、何かを望むつもりはなかったけれど。

確かに、あのふたりで防波堤に座る空間が誰かに変わってしまうことを想像したら、悲しくなった。

それがたぶん、自分の気持ちを自覚した瞬間だった。

今となっては、そんな恋心なんて、正直夢のまた夢だけど。

私は小さく首を振って、そのやわらかい気持ちに蓋をした。