オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

走りまわる子どもたちの声が聞こえる、夏休みの朝。
蝉の声も重なって、耳がくすぐったいくらいににぎやかだった。

久しぶりにぐっすり眠れた気がして、私はゆっくり身を起こした。

「汐莉ー! ちょっとこっち手伝ってー!」
一階から聞こえるお母さんの声に、思わず眉を寄せる。

「……んー」
寝ぼけたまま返事をして数秒、ふと、小さな違和感が胸に残った。

翼がいなくなったあの日から私は、ほとんどの時間を部屋にこもって過ごしていた。

そんな私を、お母さんは静かに気遣ってくれていて。
こんな風に、遠慮なくお手伝いに呼ばれたのは久しぶりな気がする。

私は、閉じたままの扉をぼんやりと見つめた。

昨日、散歩に出た私を見て少し安心したのかな。
元気づけようとしてくれているお母さんの気持ちを思い、私は小さく息を吐いて立ち上がった。

長い間、閉めきっていたカーテンに手をかけ、勢いよく引くと、眩しいくらいの朝の光がまっすぐ差し込む。

目の前の公園では、宿題から逃げてきた小学生が遊んでいる。
それは、見慣れたこの町ならではの夏の風景のはずだった。

久しぶりにそんな日常を感じようと視線を向けたその瞬間。

信じられない光景に、呼吸が止まった。

戸惑いと同時に、見覚えのある後ろ姿がくるりと振り返り、まっすぐに私の家の窓を見上げる。

「おー、汐莉!」
片腕で日差しを遮りながら、眩しそうに笑う、その爽やかな笑顔。

私は、思わず一歩下がった。

膝が、力を失いそうになって、ガタガタと震える。

「……翼……?」

その名前は、声にならなかった。
彼の笑顔の向こうで、頭の奥に、赤い光がちらつく。

なんで……どういうこと……?
どうして翼が、そこにいるの……?

「汐莉ねぼけてんじゃねーの!」
隣にいた健太が笑いながら小学生を追いかけていく。

窓の外には少し前のいつも通りが広がっていて、おかしいのは私だけみたいだった。