オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

家に帰ると、すぐにお母さんの声がした。

「汐莉! 遅かったじゃない!」

少し慌てたようなその声に、私は顔を上げる。

目的の回覧板は、ほんの数分で行って帰ってこられる距離。
一時間近く外にいた私を、きっと心配してくれていたのだと思う。

私は、手にしていたオルゴールを、そっと後ろ手に隠した。

「ごめん。ちょっと、散歩してきたの」
そう答えると、お母さんは「そっか」と小さくうなずいて、肩の力を抜いた。

私はそのまま自分の部屋へ向かい、ドアを閉めた。
心の中は、さっきの出来事と、このオルゴールのことでいっぱいだった。

机の上に、オルゴールをそっと置く。

小さな木の箱。角ばった形。
今どきにしては地味で、素朴なオルゴール。

ゼンマイを回せば、きっと、どこかの国の童謡が鳴るはずだ。

——でも。

あのお姉さんの、あの言い方。
私はベッドから降りて、至近距離でオルゴールを見つめた。

……これを回したら、何かが起こるってこと?

そんなはずない、と思う気持ちのほうが正直大きい。

それでも、もし、本当に何かが変わるなら。

——私は、翼を助けたい。

翼を思った瞬間、あの夜の赤い光が、また瞬いた。

真っ赤に染まった防波堤。
耳にこびりついたサイレンの音。

もう何度目かも分からない。
腹が立つほど鮮明な記憶が、容赦なく、視界を奪っていく。