オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

扉を開けると、まだ熱の残る夏の夕方の空気が、肌にまとわりついた。

「……あっつ」

あの日の、夏祭りの夕方と変わらない蒸し暑さ。
それだけで、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

それでも、外に出たからか、さっきまでこみ上げていた涙は、なんとか堪えられていた。

隣の家のポストに回覧板を入れ終えて、私は、そのまま家とは逆方向に歩き出した。

久しぶりに外に出て、少し気持ちが落ち着いたのかもしれない。

四ヶ月暮らしたこの町の景色は、いつの間にか見慣れたものになっている。

——何も、変わっていない。

さっきまで部屋にいた自分の時間だけが、夢の中みたいに。

ゆるやかな下り坂を前に、潮のにおいが風に混じって鼻をくすぐった。

——あ。
思わず、足が止まる。

いつの間にか、向かってしまっていた。
この坂を下りれば、いつもの防波堤が広がる。

待ち合わせなんてしなくても、彼がいる防波堤。

——下りたら、いつもみたいに、あの後ろ姿が見えるんじゃないか。
全部、夢だったんじゃないか。

そんな考えが、胸の奥を強く揺らして、私は、サンダルを引きずるように、坂を駆け下りた。