オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

黙り込むと、ぎし、と椅子が軋む音がした。

「別にさ、遠くに行ったって、なかったことになるわけじゃないだろ」

少し降りて、すぐ隣の椅子に座った翼。
彼から出た言葉が、あまりにも軽い言い方で、一瞬、耳を疑う。

「終わるよ……」
思わず、ぽつりと本音がこぼれた。

だって、今までだって。そうだったもん。

私はうつむいたまま言うけれど、翼は表情を変えない。

「終わらないよ」
当たり前みたいに、もう一度、その言葉を繰り返した翼。

——翼は転校したことがないから、そんな風に言えるんだよ。

子どもみたいな言葉が喉まで上がり、彼を振り返る。
視線が交わり、翼はその感情ごと受け止めるようにこちらを見つめた。

「あと二年したら高校生になる。もう少し大きくなれば、ちょっとくらい離れてたって、会おうと思えばすぐ会えるよ。父さんが、そう言ってた」

海を見つめる彼を見つめると、翼は続ける。

「父さん、漁師なんだ。海はどこまでも続いてるんだって、いつも話してくれる」
その言葉は、ずっと胸の奥を縛っていた何かを、そっと緩めてくれる気がした。

「俺らが、汐莉にとっての終わらない友達になるよ」
見上げると、翼は、やわらかく笑っている。

なんで、翼にこんな話をしてしまったんだろう。
そんな答えなんて、少し考えればわかるのに。

それでも私は、その気持ちをまっすぐ見つめることができなかった。

確かに嬉しかった。
でも同時に、どこかで、信じきれない気持ちもあって。

これまで、いつの間にか切れてしまった、いくつもの友達との関係が、頭をよぎって。

私は、曖昧に笑うことしかできなかった。

「……そうかなあ」
あのときの私は、期待しすぎないように、自分を守ることで、精一杯だったんだ。