オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

私には、幼い頃から続けてきた習慣がある。

机の上にあるハードカバーの1冊を手に取って、パラパラとページを開くと真っ白なページが広がった。

2027.9.24
今日の日付を書き込んで、私は少しページを戻る。

——ここに来てからは、海ばっかりだ。

季節ごとに姿を変える海のイラストが、次々にめくられていき、私は頬を緩ませた。

毎日ひとつのイラストを残すことが、私の大切な習慣。

転校ばかりで友達のいない私のイラストは、そのほとんどが風景画なのだけれど。

まだ、景色の移り変わりに慣れない頃、自分の毎日が無かったことになってしまいそうで、せめて絵に残しておきたいと思ったのが始まりだった。

ここに来た頃は、何を描いていたんだろう。

なんとなく見返したくなって、以前の絵日記を手に取る。

ペラペラとページをめくる中に、何故か目を引く一枚があった。

夕焼けに染まる防波堤に、制服姿の男女が並んで座るイラスト。

2026.4.15
描かれたのはこの町の中学校に初めて登校した日。

一年半ほど前のイラストに、首を傾げる。

——これ、私が描いたんだよね……。

私は慣れ親しんだ柔らかいタッチの色鉛筆画を指でなぞった。

「……誰と行ったんだっけ」

二人の距離は近くて、親しそうに笑っている。

そもそも人が描かれること自体が珍しいのに、覚えてないなんて不思議。

そう思ってページをめくると、その日からずっと、私の絵日記には友達のような誰かが描かれ続けていた。

明確に誰だとわかるほど、はっきりしたイラストではないけれど、なぜか心が惹かれて、とても愛しく思える。

そんなページを私は長い間ぼんやりと見つめていた。

「まぁいいや……。今日は、帰りに描こ」

小さく息を吐き出して過去の絵日記を閉じ、今日の日付を書いた一冊をカバンに入れる。

その様子を、机の上に置かれた小さなオルゴールが静かに見つめていた。