わたしがダンスを習い始めたのは、小学校入学とほぼ同時。
極度の人見知りをなんとか克服させようとした母が連れて行ってくれたダンス教室は、子ども心に衝撃だった。
わたしと同じ歳くらいの子たちが、キレの良いダンスを踊っている。
かっこいい! わたしもこうなりたい!
だからダンス教室は熱心に通って、とにかく練習をたくさんした。
わたしはダンスの才能があったのか、それとも努力の成果なのか。
先生も驚くほどのスピードで上達したのだ。
小学二年生のとき、なにがきっかけだったのか。
同じクラスの女子からこんなことをいわれた。
「ねぇ。光莉ちゃんってダンス習ってるんだよね」
「え? あ、うん……」
「じゃあさ、踊ってみせてよ」
そのクラスの女子は、けっして悪い子ではないが圧の強い子だった。
まあ、ぶっちゃけちょっと苦手だった。
このまま逃げ出してしまおうか。
そう思ったけど、場所は学校の中庭。
大きな木のすぐそばで、ここだけ地面が石造り風になっている。
まるで舞台みたい。
踊ってみたい。
「いいよ」
わたしはそういってうなずいた。
立ち上がり、すうっと息を吐く。
意識を集中させた。
わたしは主役。ダンスがとにかくうまい。みんな見とれてしまう。
そう思い込むと、ダンス教室で練習している音楽が聞こえてくるようだった。
わたしの体は勝手に動く。
いつもの振付を踊っていた。
なにこれすごく楽しい!
みんなの視線がわたしに集まる。
周囲にいた女子だけではなく、ドッジボールから戻ってきた男子も足を止めていた。
その中に桐生もいた。
わたしがダンスを終えると、周囲から拍手が起こる。
「すごーい」「星川さん運動神経よいんだね」「わたしも教えてー」
女子からそんなことをいわれて、うれしくなったっけ。
だけど、桐生がうざ絡みをしてくるようになったのは、その直後からだった。
わたしのダンスが下手だったからなのか。
いや、みんな褒めてくれた。
ああ、そうか。
きっと自分以外のクラスメイトが目立ったから気にくわなかったんだ。
それとも、もともと嫌いだったから、ダンスがどうこうじゃなくてたまたま絡みたくなったのか。
理由はまったくわからない。
生配信後、わたしはベッドに寝ころんでそんなことを思い出していた。
桐生を好きだとしたら、これは初恋。
初恋ってもっとこう、「もう大好きっ!メッセージ全部スクショで保存」とか「好きすぎて早く学校いきたい」とか、そういうふうに舞い上がるのかと思っていたのに。
わたしはやけに冷静だった。
だって、桐生は小学二年生の頃からわたしにうざ絡みしてくる。
きっとそれは、わたしが嫌いだからだろう。
今、桐生がわたしにたまにやさしいのは、カラフルの後輩だから。
小珠のダンスの能力を買ってくれているから。
それだけの理由。
つまり、桐生への恋心に気づいたとて!
もうそれとっくに失恋決定だから!
そりゃあ舞い上がる気持ちがないわけだよね、うん。
「つらいわ~。人生って無理ゲー」
わたしはそうつぶやいて、 小学二年生のあのときをもう一度思い出す。
みんなの前でダンスを披露したとき。
楽しかったなあ。
配信で踊るのも楽しいんだけど、やっぱり生の反応がもらえるのはうれしい。
そんな機会ないからな……。
いや、あるな。
エンドさまのソロライブ。
だけど、あれはみんなエンドさまの歌声を聞きにきているんだ。
わたしが変なダンスでも見せようものならきっと大ブーイング。
「だめだ、こうしちゃいられない!」
わたしはガバッと起き上がって、ダンスの練習をすることにした。
今からヒトカラ行くか。
今日は両親がまたもやそろって海外出張(おつかれさまです)
カラオケで晩ご飯を済ませちゃおう。
「光莉、ちゃんと栄養あるもの食べてね」と母が昨夜、念を押したけど。
ごめん、カラオケで唐揚げとフライドポテトとソフトクリーム、それからドリンクバーでお腹いっぱいになりそう。今日だけだから!
ってゆーか、ここのところ絶望いやご褒美飯でジャンクフードばっかりだけど。
ああ、でもさっき話してたからハンバーガーもいいなあ。
そこでふと桐生からのメッセージを思い出す。
ハンバーガーは、桐生と食べたいなあ。
ヒトカラで三時間ほどダンスの練習をした。
例のエンドさまとの盗撮をされたカラオケ店ではない。
部屋の壁がかなりぶ厚く、ダンスやバンドの練習までOKの寛容な店。
まあ、つまり防音設備がしっかりしているカラオケ店だ。
ここならドリンクバーだけではなく、ソフトクリームも食べ放題。
注文する軽食もかなりおいしい。
一つ難点があるとすれば、部屋がタバコ臭いことだろう。
ここは基本的にフリータイムで長居する人が多く、ハズレの部屋は前の人の匂いや体温さえも残っている。
今回はハズレ部屋で、タバコの匂いがすごい。
でも、そんな匂いもだんだん慣れ、わたしはダンスの練習をし、軽食で休憩をとり、またダンスの練習を再開した。
そういえば、ダンス教室の先生がいってたな。
「あの人に見てほしい、という気持ちがこもっているといいダンスが踊れますよ」
わたしだったら、桐生なのかな。
でも、桐生はわたしのダンスを本当にいいと思ってくれてるのかな。
本当は、自分の歌声の引き立て役にちょうどいい下手なダンス。
そう思っていてる可能性だってある。
自分の初恋相手を、性格の悪い人だと思いたくないけど……。
でも、うざ絡みしたりケンカをふっかけてきたりする相手を性格が良いとはとても……。
とはいえ、桐生は性格が悪いなら、活動停止なんかしないよね。
わたしをかばってくれたんだもん。
じゃあ、なんだろう。
そこでひらめいてしまった。
ヘタウマダンスとか思っている可能性は、あるな……。
三時間ほどのダンスレッスン(ヒトカラ)を終え、わたしは家に帰った。
なんだか喉がイガイガする。頭も痛いような。
もしかしてあの部屋、わたしの前にいた人が風邪ひいてたとか?
「可能性はあるな。早めに寝よう」
わたしはシャワーを浴び、ベッドに横になると、すぐに眠りについた。
明日にはよくなってるよ。
十代の体力なめんなよ、風邪ウイルス。
極度の人見知りをなんとか克服させようとした母が連れて行ってくれたダンス教室は、子ども心に衝撃だった。
わたしと同じ歳くらいの子たちが、キレの良いダンスを踊っている。
かっこいい! わたしもこうなりたい!
だからダンス教室は熱心に通って、とにかく練習をたくさんした。
わたしはダンスの才能があったのか、それとも努力の成果なのか。
先生も驚くほどのスピードで上達したのだ。
小学二年生のとき、なにがきっかけだったのか。
同じクラスの女子からこんなことをいわれた。
「ねぇ。光莉ちゃんってダンス習ってるんだよね」
「え? あ、うん……」
「じゃあさ、踊ってみせてよ」
そのクラスの女子は、けっして悪い子ではないが圧の強い子だった。
まあ、ぶっちゃけちょっと苦手だった。
このまま逃げ出してしまおうか。
そう思ったけど、場所は学校の中庭。
大きな木のすぐそばで、ここだけ地面が石造り風になっている。
まるで舞台みたい。
踊ってみたい。
「いいよ」
わたしはそういってうなずいた。
立ち上がり、すうっと息を吐く。
意識を集中させた。
わたしは主役。ダンスがとにかくうまい。みんな見とれてしまう。
そう思い込むと、ダンス教室で練習している音楽が聞こえてくるようだった。
わたしの体は勝手に動く。
いつもの振付を踊っていた。
なにこれすごく楽しい!
みんなの視線がわたしに集まる。
周囲にいた女子だけではなく、ドッジボールから戻ってきた男子も足を止めていた。
その中に桐生もいた。
わたしがダンスを終えると、周囲から拍手が起こる。
「すごーい」「星川さん運動神経よいんだね」「わたしも教えてー」
女子からそんなことをいわれて、うれしくなったっけ。
だけど、桐生がうざ絡みをしてくるようになったのは、その直後からだった。
わたしのダンスが下手だったからなのか。
いや、みんな褒めてくれた。
ああ、そうか。
きっと自分以外のクラスメイトが目立ったから気にくわなかったんだ。
それとも、もともと嫌いだったから、ダンスがどうこうじゃなくてたまたま絡みたくなったのか。
理由はまったくわからない。
生配信後、わたしはベッドに寝ころんでそんなことを思い出していた。
桐生を好きだとしたら、これは初恋。
初恋ってもっとこう、「もう大好きっ!メッセージ全部スクショで保存」とか「好きすぎて早く学校いきたい」とか、そういうふうに舞い上がるのかと思っていたのに。
わたしはやけに冷静だった。
だって、桐生は小学二年生の頃からわたしにうざ絡みしてくる。
きっとそれは、わたしが嫌いだからだろう。
今、桐生がわたしにたまにやさしいのは、カラフルの後輩だから。
小珠のダンスの能力を買ってくれているから。
それだけの理由。
つまり、桐生への恋心に気づいたとて!
もうそれとっくに失恋決定だから!
そりゃあ舞い上がる気持ちがないわけだよね、うん。
「つらいわ~。人生って無理ゲー」
わたしはそうつぶやいて、 小学二年生のあのときをもう一度思い出す。
みんなの前でダンスを披露したとき。
楽しかったなあ。
配信で踊るのも楽しいんだけど、やっぱり生の反応がもらえるのはうれしい。
そんな機会ないからな……。
いや、あるな。
エンドさまのソロライブ。
だけど、あれはみんなエンドさまの歌声を聞きにきているんだ。
わたしが変なダンスでも見せようものならきっと大ブーイング。
「だめだ、こうしちゃいられない!」
わたしはガバッと起き上がって、ダンスの練習をすることにした。
今からヒトカラ行くか。
今日は両親がまたもやそろって海外出張(おつかれさまです)
カラオケで晩ご飯を済ませちゃおう。
「光莉、ちゃんと栄養あるもの食べてね」と母が昨夜、念を押したけど。
ごめん、カラオケで唐揚げとフライドポテトとソフトクリーム、それからドリンクバーでお腹いっぱいになりそう。今日だけだから!
ってゆーか、ここのところ絶望いやご褒美飯でジャンクフードばっかりだけど。
ああ、でもさっき話してたからハンバーガーもいいなあ。
そこでふと桐生からのメッセージを思い出す。
ハンバーガーは、桐生と食べたいなあ。
ヒトカラで三時間ほどダンスの練習をした。
例のエンドさまとの盗撮をされたカラオケ店ではない。
部屋の壁がかなりぶ厚く、ダンスやバンドの練習までOKの寛容な店。
まあ、つまり防音設備がしっかりしているカラオケ店だ。
ここならドリンクバーだけではなく、ソフトクリームも食べ放題。
注文する軽食もかなりおいしい。
一つ難点があるとすれば、部屋がタバコ臭いことだろう。
ここは基本的にフリータイムで長居する人が多く、ハズレの部屋は前の人の匂いや体温さえも残っている。
今回はハズレ部屋で、タバコの匂いがすごい。
でも、そんな匂いもだんだん慣れ、わたしはダンスの練習をし、軽食で休憩をとり、またダンスの練習を再開した。
そういえば、ダンス教室の先生がいってたな。
「あの人に見てほしい、という気持ちがこもっているといいダンスが踊れますよ」
わたしだったら、桐生なのかな。
でも、桐生はわたしのダンスを本当にいいと思ってくれてるのかな。
本当は、自分の歌声の引き立て役にちょうどいい下手なダンス。
そう思っていてる可能性だってある。
自分の初恋相手を、性格の悪い人だと思いたくないけど……。
でも、うざ絡みしたりケンカをふっかけてきたりする相手を性格が良いとはとても……。
とはいえ、桐生は性格が悪いなら、活動停止なんかしないよね。
わたしをかばってくれたんだもん。
じゃあ、なんだろう。
そこでひらめいてしまった。
ヘタウマダンスとか思っている可能性は、あるな……。
三時間ほどのダンスレッスン(ヒトカラ)を終え、わたしは家に帰った。
なんだか喉がイガイガする。頭も痛いような。
もしかしてあの部屋、わたしの前にいた人が風邪ひいてたとか?
「可能性はあるな。早めに寝よう」
わたしはシャワーを浴び、ベッドに横になると、すぐに眠りについた。
明日にはよくなってるよ。
十代の体力なめんなよ、風邪ウイルス。



