その日の放課後は、椎名さんたちとカラオケ行くことになった。
まさか自分に、「クラスの友だちとカラオケ」というイベントがあるなんて……。
中学生活は期待していなかったけど、まだまだ捨てたものではない。
最初は椎名さんたちとお昼を食べるのだって面倒だなあと思っていたけど、なんだかんだで楽しいし。
みんなでおしゃべりをしながら、カラオケへ。
「ねーねー。だれから歌う?」
「わたし、ちょっと探したい曲あるからあとでいいよ」
「んじゃわたし一曲目いくね」
みんな楽しそうに曲を選んで、歌いだす。
わたしは、控えめに手拍子をしつつも驚いていた。
カラオケって、こんな感じなんだ……。
ヒトカラだと淡々と歌の練習するか、ストレス発散するだけだし。
Vtuber仲間と来たときは、みんな声を変えて歌うのに必死で早々と疲れてしまった。
そうだ、本来のカラオケってこんなに気軽で楽しいんだ。
なんかいいなあ、こういうの……などと思いつつ曲を選ぶ。
ふと周囲の選曲を確認。見事にJ-POPばかりが並んでいる。
Vtuberの曲とはいわないけど、アニソンだと浮くかなあ。
わたし、アニソンかVtuberの曲かボカロの曲しか知らないんだよね。
すると隣の部屋から聞き覚えのある歌声が聞こえた。
男子の声。イケボ。エンドさまに似ている。そんなまさか。
でもエンドさまは桐生だ。このカラオケは中学からも近い。
ヒトカラに来ていてもおかしくないけど、だとしたらタイミングが良すぎる。
うんうん、きっと気のせい。おむすびあるある。
そう結論を下して、選曲に戻ろうとしたとき。
またエンドさまっぽい声が聞こえてきた。
なんだか気になったので、歌が途切れたときにトイレに立つふりをして部屋の外へ。
すると、わたしたちの隣の部屋から桐生が出てきた。
「えっ」
「あ」
わたしと桐生は見つめ合い、黙り込んだ。
桐生は珍しくオロオロしていて、「ちょっと来い」とわたしを廊下の隅に連れ出した。
周囲に誰もいないこと確かめると、桐生はいう。
「いや別に着いてきたわけではなくて、ちがうんだ、いや」
「そのいいかただと、ついてきたみたいに聞こえる」
「……まあ、そうともいう」
「どっちなのよ」
「星谷が椎名たちとカラオケ行くって話が聞こえてきたから。それで、星谷がヘマしないか心配でな」
「お父さんかよ」
「だって、星谷はまだ歌いながら声を変える訓練はしていないだろ」
「そうだけど。こっそり着いて来なくてもいいじゃない」
「おれだってべつに、放課後は配信の準備とかするつもりだった」
「だよね。忙しいのにのんきにカラオケしてて大丈夫なの?」
「そうだな。のんきに歌ってる場合じゃない」
珍しく素直に桐生はいうと、小さく息を吐く。
「ま、ちょっと歌の練習してから帰るか」
「そっか。今日は配信、夜十時からだよね」
「うん。そのつもり」
桐生はそれだけいうと、「じゃあ、配信聴きにこいよ。待ってるから」といって歩き出した。
それから桐生はふと足を止め、「ん?」と首をかしげる。
「どうしたの?」
「あ、いや。なんでもない」
桐生はそれだけいうと、廊下を歩いて行った。
さて、わたしも部屋に戻ろう。
カラオケを終え、家に帰ってベッドに寝転んだ。
今日はすごく楽しかったなあ。
ヒトカラで十分って思ってたけど、大勢のカラオケもいいもんだ。
知らない曲を知れるし、歌った曲を褒めてもらえたりして嬉しい。
ジュースとポテトをつまみながら、学校の話をするのも楽しかった。
恋バナには混ぜれなかったけど……いつかはわたしも……。
そのとき、なぜか桐生の顔が浮かんだ。
「いやいや、なんで桐生が! 関係ないでしょ!」
そういってわたしは自分の頬をぺしぺしとたたく。
それにしても、本当に今日は楽しかった。
大人になっても今日のことはきっと思い出すんだろうな。
もしかしたら、こういうのを青春っていうのかな。
「青春かあ。青春、できてるのかな、わたし」とつぶやいてから思い出す。
そうだ。みんなと連絡先を交換したんだ。
スマホを取りだしたとき、たくさんの着信があることに気づいた。
着信の相手はマネージャーだった。
こんなに着信があるのは珍しい。なんだろう急用かな?
電話をかけると、すぐにマネージャーが出る。
『お疲れさまです。あの、今日って学校帰りにカラオケ行きました?』
「お疲れさまです。はい。カラオケ、行きましたよ」
『じゃあ、やっぱりあの動画の女の子は、星谷さんなんですね……』
「動画? なんのことですか?」
『それがその……。パソコンのほうにメールを送ったので確認していただけますか?』
マネージャーの言葉に、わたしは不思議に思いつつメールを開く。
そこには「緊急です」という件名とともにこんな本文がある。
【お世話になっております。先ほどSNSのアカウントからこのような動画がアップロードされました。声から察するに、黒音小珠さんと礼地エンドさんだと思われますが、人ちがいでしょうか?】
そんな文章とともに、URLが張り付けてある。
それをクリックすると、画面にはSNSのアカウントが表示された。
エンドさまラブという名前以外は自己紹介文もなにもないアカウント。
そこには、動画がアップロードされて一言添えられていた。
【エンドさまと地味な女子がふたりきりでカラオケとかゆるせない】
その文章に嫌な予感がしつつも、動画を再生。
その動画に映っているのは、わたしと桐生だった。
『おれだってべつに、放課後は配信の準備とかするつもりだった』
『だよね。忙しいのにのんきにカラオケしてて大丈夫なの?』
『そうだな。のんきに歌ってる場合じゃない』
さっきのカラオケでのやりとりが動画に映っていた。
心臓がバクバクしている。嫌な汗がぶわっと出る。
なにこれ……どういうこと……?
なんでさっきのやりとりが撮影されて、SNSにアップロードされてるの?
心拍数はどんどん上がっていく。
なんだか無性に喉が渇く。
『じゃあ、配信聴きにこいよ。待ってるから』
桐生のその言葉に「いらっしゃいませー」というカラオケ店員の声。
賑やかなグループの声が聞こえてくる。
「やば」という女性の小声が聞こえ、そこで動画は終わっていた。
わたしはパソコンの前で、ぼうぜんとしていた。
まさか自分に、「クラスの友だちとカラオケ」というイベントがあるなんて……。
中学生活は期待していなかったけど、まだまだ捨てたものではない。
最初は椎名さんたちとお昼を食べるのだって面倒だなあと思っていたけど、なんだかんだで楽しいし。
みんなでおしゃべりをしながら、カラオケへ。
「ねーねー。だれから歌う?」
「わたし、ちょっと探したい曲あるからあとでいいよ」
「んじゃわたし一曲目いくね」
みんな楽しそうに曲を選んで、歌いだす。
わたしは、控えめに手拍子をしつつも驚いていた。
カラオケって、こんな感じなんだ……。
ヒトカラだと淡々と歌の練習するか、ストレス発散するだけだし。
Vtuber仲間と来たときは、みんな声を変えて歌うのに必死で早々と疲れてしまった。
そうだ、本来のカラオケってこんなに気軽で楽しいんだ。
なんかいいなあ、こういうの……などと思いつつ曲を選ぶ。
ふと周囲の選曲を確認。見事にJ-POPばかりが並んでいる。
Vtuberの曲とはいわないけど、アニソンだと浮くかなあ。
わたし、アニソンかVtuberの曲かボカロの曲しか知らないんだよね。
すると隣の部屋から聞き覚えのある歌声が聞こえた。
男子の声。イケボ。エンドさまに似ている。そんなまさか。
でもエンドさまは桐生だ。このカラオケは中学からも近い。
ヒトカラに来ていてもおかしくないけど、だとしたらタイミングが良すぎる。
うんうん、きっと気のせい。おむすびあるある。
そう結論を下して、選曲に戻ろうとしたとき。
またエンドさまっぽい声が聞こえてきた。
なんだか気になったので、歌が途切れたときにトイレに立つふりをして部屋の外へ。
すると、わたしたちの隣の部屋から桐生が出てきた。
「えっ」
「あ」
わたしと桐生は見つめ合い、黙り込んだ。
桐生は珍しくオロオロしていて、「ちょっと来い」とわたしを廊下の隅に連れ出した。
周囲に誰もいないこと確かめると、桐生はいう。
「いや別に着いてきたわけではなくて、ちがうんだ、いや」
「そのいいかただと、ついてきたみたいに聞こえる」
「……まあ、そうともいう」
「どっちなのよ」
「星谷が椎名たちとカラオケ行くって話が聞こえてきたから。それで、星谷がヘマしないか心配でな」
「お父さんかよ」
「だって、星谷はまだ歌いながら声を変える訓練はしていないだろ」
「そうだけど。こっそり着いて来なくてもいいじゃない」
「おれだってべつに、放課後は配信の準備とかするつもりだった」
「だよね。忙しいのにのんきにカラオケしてて大丈夫なの?」
「そうだな。のんきに歌ってる場合じゃない」
珍しく素直に桐生はいうと、小さく息を吐く。
「ま、ちょっと歌の練習してから帰るか」
「そっか。今日は配信、夜十時からだよね」
「うん。そのつもり」
桐生はそれだけいうと、「じゃあ、配信聴きにこいよ。待ってるから」といって歩き出した。
それから桐生はふと足を止め、「ん?」と首をかしげる。
「どうしたの?」
「あ、いや。なんでもない」
桐生はそれだけいうと、廊下を歩いて行った。
さて、わたしも部屋に戻ろう。
カラオケを終え、家に帰ってベッドに寝転んだ。
今日はすごく楽しかったなあ。
ヒトカラで十分って思ってたけど、大勢のカラオケもいいもんだ。
知らない曲を知れるし、歌った曲を褒めてもらえたりして嬉しい。
ジュースとポテトをつまみながら、学校の話をするのも楽しかった。
恋バナには混ぜれなかったけど……いつかはわたしも……。
そのとき、なぜか桐生の顔が浮かんだ。
「いやいや、なんで桐生が! 関係ないでしょ!」
そういってわたしは自分の頬をぺしぺしとたたく。
それにしても、本当に今日は楽しかった。
大人になっても今日のことはきっと思い出すんだろうな。
もしかしたら、こういうのを青春っていうのかな。
「青春かあ。青春、できてるのかな、わたし」とつぶやいてから思い出す。
そうだ。みんなと連絡先を交換したんだ。
スマホを取りだしたとき、たくさんの着信があることに気づいた。
着信の相手はマネージャーだった。
こんなに着信があるのは珍しい。なんだろう急用かな?
電話をかけると、すぐにマネージャーが出る。
『お疲れさまです。あの、今日って学校帰りにカラオケ行きました?』
「お疲れさまです。はい。カラオケ、行きましたよ」
『じゃあ、やっぱりあの動画の女の子は、星谷さんなんですね……』
「動画? なんのことですか?」
『それがその……。パソコンのほうにメールを送ったので確認していただけますか?』
マネージャーの言葉に、わたしは不思議に思いつつメールを開く。
そこには「緊急です」という件名とともにこんな本文がある。
【お世話になっております。先ほどSNSのアカウントからこのような動画がアップロードされました。声から察するに、黒音小珠さんと礼地エンドさんだと思われますが、人ちがいでしょうか?】
そんな文章とともに、URLが張り付けてある。
それをクリックすると、画面にはSNSのアカウントが表示された。
エンドさまラブという名前以外は自己紹介文もなにもないアカウント。
そこには、動画がアップロードされて一言添えられていた。
【エンドさまと地味な女子がふたりきりでカラオケとかゆるせない】
その文章に嫌な予感がしつつも、動画を再生。
その動画に映っているのは、わたしと桐生だった。
『おれだってべつに、放課後は配信の準備とかするつもりだった』
『だよね。忙しいのにのんきにカラオケしてて大丈夫なの?』
『そうだな。のんきに歌ってる場合じゃない』
さっきのカラオケでのやりとりが動画に映っていた。
心臓がバクバクしている。嫌な汗がぶわっと出る。
なにこれ……どういうこと……?
なんでさっきのやりとりが撮影されて、SNSにアップロードされてるの?
心拍数はどんどん上がっていく。
なんだか無性に喉が渇く。
『じゃあ、配信聴きにこいよ。待ってるから』
桐生のその言葉に「いらっしゃいませー」というカラオケ店員の声。
賑やかなグループの声が聞こえてくる。
「やば」という女性の小声が聞こえ、そこで動画は終わっていた。
わたしはパソコンの前で、ぼうぜんとしていた。



