消えたくなったら星(スター)になれ

 その日以降、わたしは椎名さんのいるグループでお昼ご飯を食べることに。
 彼女のグループは誰ひとり嫌な顔ひとつせずに、わたしを笑顔で迎えてくれた。
 椎名さんを含め、みんな良い人たち……なのだけど。
 なんでこんなに疲れるんだろう。

 わたしはお昼を食べ終えると、屋上へ行くのが日課になってしまった。
 ここならだれもいない。桐生以外は。

「友だちができたんだろ」

 桐生が背中を向けたままいった。

「なんか……。ひとりになりたくて……」

 そういうと、桐生は黙ってフェンスの向こうの景色を見る。
 わたしもフェンスの向こうに見える模型のような街並みに視線を向けた。

 今まで友だちがいなかったわけじゃない。
 カラフルのVtuberの中にはプライベートで連絡を取り合っている子は何人かいる。
 だから余計に中学では友だちはいらない、と思っていた。
 とはいえ、このまま中学でぼっちを貫くのもどうなのかなとは感じてはいたんだ。

「みんな良い人たちなんだけど、話題についていけない……」

 わたしはひとりごとのようにぼやいた。
 桐生がこちらを見た。

「みんな、部活のこととか恋バナとかそういう話してる。Vtuberの話なんてできない」

 わたしがそういうと、桐生が口を開いた。

「良い人たちっていうだけで十分だろ。趣味が合うかどうかなんて二の次」
「桐生は友だちとVtuberの話とかするの?」
「しない。それを話題にするとおれの身バレのリスクも上がるしな」
「それもそうだね。でもさ、わたしは話題がVtuberのことしかないからなあ」
「それなら聞き役に徹するしかないだろ」
「まあ、それもそうだね。女子中学生のリアルな話題を知っておくこともVtuberとして必要だしね」
「そう。学校はさ、いうなれば社会の一部。なにもかも経験だと思えばいいんだって」
「なんか桐生、悟ってるよね」

 わたしがそういって桐生を見ると、その横顔はどこか疲れているようだった。
 さっき数学の抜き打ち小テストで満点をとって、見事なドヤ顔をしていた桐生とは別人のよう。
 桐生は相変わらず勉強も運動もできて、クラスでも友だちが多くて学校生活を謳歌している。
 いやむしろ、そういう「桐生海都」を演じているのかもしれない。
 なんのためか検討もつかないけど。

 もしかしたら、Vtuberの布教活動のためかもしれない。身バレせずにVtuberって面白いよと勧めることは可能だし。
 それとも、万が一にも身バレしたときに、「ああ、中身が桐生ならいいかな」とか思わせるためかもしれない。わたしはよくなかったけど。
 だから、きっと中学生活を捨てたわたしより、ずっとずっと大変なんだろうなあ。
 そう考えると、なんだか同情してしまう。

「桐生も大変なんだね」
「なんだ。珍しくおれに同情してくれるのか」
「まあ、ちょっとね」
 
 わたしが素直に答えると、桐生はこちらを見ていう。

「もっとどんどん同情して慰めてくれたっていいんだけど」
「わたしから慰められてもうれしくないでしょ」
「うれしいけど」

 桐生の言葉に、わたしは何もいえなくなった。
 うれしい? 桐生、わたしのこと嫌いなくせに? 冗談でしょ。
 いつもならそう返せるのに、なぜか喉に何か詰まったように言葉が出ない。
 
「なーに顔赤くしてんだよ」 
「は? 赤くないし!」
「照れてる顔、最高にかわいいな」
「なっ! かっ、からかわないでよ!」
「からかってないけど」
「絶対にからかってる!」
「はいはい。ま、面白いもん見れたからいいか」

 桐生はそういうと、満足そうに笑って屋上を出て行った。
 心臓がドキドキする。
 なんで? あ、そっか。わかった。
 桐生といっしょにいると、ストレスで動悸がするんだ。
 あんまり近づかないようにしなきゃ。