消えたくなったら星(スター)になれ

「あのさ、おれ……」

 桐生がそういいかけたとき。
 いきなり桐生はハッとして、わたしの手首から自分の手を放す。
 それから、わたしから少し距離を取った。

「だれか来る」

 桐生がそういった直後。
 階段を上がる音。
 そして屋上のドアが開く音。

「あのー」と遠慮がちに顔を見せたのは、女子だった。
 本当だ。桐生、すごいを通り越してなんか不気味。

「桐生くん、ちょっといいかな?」

 女子の言葉に、桐生はニコニコしながらいう。

「ん? なに?」
「担任の先生が桐生くんのこと呼んでたよ」
「あ! 忘れてた!」

 本当に呼び出されてたんかい!
 それにしても、この女子はだれだっけ? 担任の先生っていってたから同じクラスだよね。
 やば、苗字すらわかんないや。
 まあいいか。関わらないだろうし。

 この現場を見られたところで、「桐生に告白していた女子」として思われるだけだろうし。
 それ嫌だな……。でもいいわけすると逆に変だし。
 知らない女子(同じクラスらしいけど)に話しかける勇気もないし。

 すると、桐生はわたしをチラッと見る。
 それからクラスメイトの女子にいう。

椎名(しいな)さん、ありがと」

 ああ、そういえばクラスの女子に椎名さんという子がいたっけ。
 美人でコミュ力が高そうで、いつも大勢のクラスメイトに囲まれているのを見たことはある。
 つまり、完全に桐生側の人間。

「じゃ、おれの説教はおわり。せいぜい勉強頑張れよ」

 桐生はわたしにニヤッと笑って、屋上を出て行った。
 ああ、わたしに勉強を教えてたってことにしたいんだ。
 でも説教ってなんだよ……。
 椎名さんはわたしをじっと見てから、口を開く。

「お昼休みまで勉強なんて、頑張ってるんだね」
「え? ああ、まあ……」
「桐生くんとはいつも教室ではケンカばっかりしてるみたいだけど、仲いいんだねえ」

 椎名さんはそういってニコニコ笑う。
 完全に悪意〇の笑顔。
 どうやら探りを入れられているとか嫌味というわけではなさそう。
 
「仲はよくないよ。ただ、その、勉強をちょっと教わってただけで」
「そっか。じゃあ、もしかして勉強の途中だった?」
「あ、いや、えっと、大丈夫」
「邪魔しちゃったんなら、わたしが教えようか……って、わたしがわかるところかな」

 そういった椎名さんは「えへへ」とかわいく笑う。
 ああ、この陽キャ特有の明るさ。ちょっとうらやましい。
 でも正直なところ、もうしゃべるの疲れてきた……。
 
「大丈夫だから、本当に……ありがとう」

 もう関わらないで、ひとりにして。
 そんなふうにいえたら、どんなにいいか。 

「ってゆーか、お昼、もしかしてここで食べるつもりだった?」

 椎名さんはまだ開いていないわたしのランチバッグを見ていった。
 めざといな~めんどいな~。

「あー。うん。桐生が教室に戻ったらここでひとりで食べよっかなあって」

 ひとりで、を強めに協調しておく。
 わたしと桐生の仲は絶対に秘密だ。
 まさかいっしょにお昼を食べようとしていた(桐生が後からきたんだけど)なんて思われたら困る。
 仲良いと思わてしまえば、わたしと桐生がVtuberだってこともバレる可能性がある。最悪だ。

「そっか……。大変だったんだね」

 椎名さんはそういって、目を伏せる。
 え? なにが大変だったね、なの?
 意味がわからないわたしに、椎名さんはにっこり笑う。

「明日からは、わたしたちといっしょにお昼、食べようよ」
「……えっ?」
「星谷さんがよければ、だけど」

 そういった椎名さんは、笑ってはいるけど少し不安そう。
 ああ、わたしがひとりでお昼を食べるのを、大変だと思ったのか……。
 むしろひとりが気楽なんだけどな……。
 だけど、はっきりそういえるほど強くはない。
 だからわたしは、ぎこちない笑顔でこう答える。

「あ、じゃあ、仲間に入れてもらおうかな……」
「よかったー! 明日から楽しみだね」

 椎名さんの笑顔がキラキラしている。
 陽キャの光がまぶしい……。溶けそう。

「タノシミダネー」

 わたしはぎこちない笑顔で心にもないことをいった。