終わらない愛の果てで




「─天宮」

「冴島」

「帰るのか?」

「ああ。仕事は終わったし。定時だろ」

無駄な残業はしたくない。
必要とあればするけど、ないのに職場に残るほど、自分は仕事熱心ではないのだ。

「…それはそうだけど」

「?、何だよ」

「あー……その、飯、行かね?」

「良いけど。珍しいな」

「良し。じゃあ、俺も帰る準備してくる」

そう言って、慌ただしく自分のデスクに戻る冴島を見ながら、皇は今日、何かあったか考える。……特に何も無かったはずだけど。

「良かった〜断られたら、どうしようかと」

会社を出て、向かう繁華街。
彼は何故か、ほっとした顔をしていて。

「?、今日、何かあったか?」

たまに、仕事で契約が取れたお祝いとかで飲みに行くことはあったが、今日は何も無い。
因みに、互いの誕生日でもなければ、冴島には家に最愛の恋人がいるはず。

「……天宮、お前、最近、飯食ってないだろ」

思わず、足を止めた。

「今日、アイスコーヒーを受け取った時の手首、前よりも細くなってる」

真剣な顔で怒られているのだと、感じた。

「……ジム行ってるからじゃないか?」

「俺も行ってる。でも、そんな変な痩せ方はしない。また、この季節だからだろ。毎年言ってるけど、……食えよ、馬鹿野郎が」

「……」

元々、食事は取るほうじゃなかった。
彼女やおばさんが作ってくれた料理は好きだったが、自分は料理が苦手だった。

外食も口に合わないし、彼女はそんな皇を『偏食家〜』と笑い、皇が苦手なものも食べやすくしてくれて、まるで子供扱いみたいなそれすらも、彼女に特別扱いされている気がして。

もう5年以上前の話なのに、振り返れば振り返るほど、未練がましい自分にうんざりする。

「……すまん」

季節は春先。
彼女がいなくなった季節。
おばさんがなくなった季節。

あんなにもお世話になったのに、
可愛がってもらったのに、彼女は葬式に参列することすら、許してくれなかった。

いや、そもそも、亡くなったことすらも教えてくれなかった。

『皇くん!』

抱き締めてくれた力強い腕。
名前を呼んでくれて、頭を撫でてくれた。

『うちの子、守ってあげてね』

溌剌とした、明るく優しいおばさんを亡くした彼女を抱き締める権利すら与えられなかった。

『一人暮らしなんてしないよ。だって、お母さんがいるもん』

唯一無二の家族。
ひとりっ子で、シングルマザーだった家庭。
母を亡くして、彼女は誰の胸で泣いたのか。

ひとりで声を殺したのか。
……もし、誰かがいたのなら。

……そんな、相手を想像して、それにすら怒りを抱く、嫉妬している自分に嫌気が差す。

何度考えても、分からなかった。
依存をしていた自覚はあるけど、幼い頃から、彼女がいればそれで良かった。

彼女がいたから、両親のなかで自分の優先度が低くても、『生まれて来なければ』と、母親に罵られ、置いていかれても、耐えられたのに。