その瞬間、ジークは勝ち誇った顔をした。
「これでも私が盗んだと言い張る気か?」
黙り込んだロアンナに、幽霊ライズの必死な声が聞こえてくる。
『くそっ! 侍女長の忠誠心を見誤っていました。すみません!』
ロアンナは、心の中で返事をした。
『あなたが謝る必要はないわ。私も侍女長が命がけでジーク殿下を救おうとするなんて思っていなかったもの』
お飾りメイド達が簡単に寝返ったので、侍女長も最後はこちら側に寝返ると思い込んでしまっていた。
『ライズさん、ここから巻き返す方法は?』
ライズは頭を抱えるように、ウンウンと唸ったあと、ガックリと下を向いた。
『……ありません。侍女長が自供してしまっては、真実がどうであれ、この場ではとりあえず侍女長を捕まえるしかないかと』
不遜な態度で両手を広げたジークは、ニヤニヤと笑っている。
「犯人が目の前にいるのに、拘束しないのか? デュアン、仕事をしろ」
「……はい」
地面に座り込んだままの侍女長は、腰が抜けてしまっているようで、デュアンが腕を引いても立ち上がれなかった。
「失礼します」
そう断ってからデュアンは、ひょいと侍女長を横抱きに抱きかかえる。極度の緊張状態だった侍女長は、そのまま気を失ってしまったようだ。
デュアンは、冷たい目をジークに向けた。
「殿下にも後日、お話を聞かせていただきます」
「ああ、いくらでも話してやる」
ザッザッと音を立てながら、デュアンの足音が遠のいていく。
もうこの場には用はないとでも言うようにジークも歩き出した。そして、ロアンナの横を通りすぎるときニヤッと口端を上げる。
「英雄の能力が使えなくなったおまえは、何ができるんだ?」
リボンを燃やしたことで、ロアンナの力が失われたと勝手な妄想をしているようだ。
ロアンナはジークを見ずに、まっすぐ前を向いたまま尋ねた。
「侍女長は、あなたの乳母だったのではないのですか?」
子どもの頃から共にいて、少しの情もないのかと問い詰めたい気持ちをグッと抑え込む。そんなロアンナを小馬鹿にするように、ジークは鼻で笑った。
「最後に私の役に立てたのだ。侍女長も喜んでいるだろうよ」
ジークの不快な笑い声が聞こえなくなった頃、幽霊ライズの小さな手がロアンナの手に重なる。
『ロアンナ様……。あまり握りしめると』
怒りのあまり両手を強く握っていたようだ。ロアンナがゆっくり手を開くと、爪が手のひらに食い込んで赤くなっていた。落ち着かなくてはと思い、深く息を吐く。
ライズのおかげで気持ちを切り替えることができたロアンナは、背後に控えていたエリーとレイを振り返り「私達も戻りましょう」と告げた。
飛んでいるライズは、なんだかフラフラしていて危なっかしい。
『力及ばず、申し訳ありません。まさか、あそこまで追い詰めた状態で、ジーク殿下を仕留め損ねるなんて……』
『さっきも伝えたけど、ライズさんが謝る必要はないわ。あなたがいたから、ここまで追い詰めることができたのよ。ありがとう』
『ロアンナ様……』
フルフルと体を震わせながら感動しているライズを見て、ロアンナは口元を緩める。
『それに、うまくいかなければ、うまくいくまで、いろんな方法を試すだけ、そうでしょう?』
パァッと顔色を明るくしたライズは『はい!』と元気なお返事をした。
*
次の日の朝。
カーテンの隙間から差し込む光の眩しさに、ロアンナはほんの少しだけ目を開けた。
昨晩の疲れが出ているのか、全身がだるく感じるし、侍女長のことを思うと心も重苦しい。しかし、ロアンナはこのままベッドの上で、ゆっくりするわけにはいかなかった。
事実上、王太子宮を管理していた侍女長が、騎士団に捕らえられたということは、王太子宮の管理権限が、ロアンナに戻ってきたということでもある。
(今日から忙しくなるわね)
管理権限を得たことは喜ばしいが、捕まった侍女長はどうなるのだろうか。そんな考えを振り払うように、ロアンナは首を左右に振った。
そのとき、寝室の扉がノックされ、エリーが飛び込んできた。
「お姉様、おはようございます! すぐに朝の身支度の準備をいたしますね。その前に、こちらを」
そう言いながら手紙を差し出すエリーの手はかすかに震えていた。封蝋に押されている紋章は、王家のものだ。
(エリーが震えるほどの王族……。ジーク殿下ではないでしょうね)
手紙を受け取り、差出人を見たロアンナは目を大きく見開いた。
「本日中に王妃様が、私に会いに王太子宮に来られるそうよ」
「えっ!? で、では、今日はワンピースではなくドレスに着替えますか?」
「そうね。思いっきり着飾ってちょうだい」
「分かりました!」
一人になったロアンナは、心の中でライズに呼びかけた。
『ライズさん、いるかしら?』
『はい』
壁をすり抜けて、スゥとライズが姿を現す。
『この手紙を見てほしいの』
不思議そうにフワフワと近づいてきたライズは、手紙を覗き込んだ。
『あなたは、ジーク殿下を仕留め損ねたと言っていたけど、どうやら違ったみたいよ』
手紙には昨晩、捕らえられた侍女長について話があると書かれている。
『王妃様、直々に?』
『そう。どうやら、私達は殿下よりさらに大物を、同じ戦場に引きずり出すことに成功していたようね』
「これでも私が盗んだと言い張る気か?」
黙り込んだロアンナに、幽霊ライズの必死な声が聞こえてくる。
『くそっ! 侍女長の忠誠心を見誤っていました。すみません!』
ロアンナは、心の中で返事をした。
『あなたが謝る必要はないわ。私も侍女長が命がけでジーク殿下を救おうとするなんて思っていなかったもの』
お飾りメイド達が簡単に寝返ったので、侍女長も最後はこちら側に寝返ると思い込んでしまっていた。
『ライズさん、ここから巻き返す方法は?』
ライズは頭を抱えるように、ウンウンと唸ったあと、ガックリと下を向いた。
『……ありません。侍女長が自供してしまっては、真実がどうであれ、この場ではとりあえず侍女長を捕まえるしかないかと』
不遜な態度で両手を広げたジークは、ニヤニヤと笑っている。
「犯人が目の前にいるのに、拘束しないのか? デュアン、仕事をしろ」
「……はい」
地面に座り込んだままの侍女長は、腰が抜けてしまっているようで、デュアンが腕を引いても立ち上がれなかった。
「失礼します」
そう断ってからデュアンは、ひょいと侍女長を横抱きに抱きかかえる。極度の緊張状態だった侍女長は、そのまま気を失ってしまったようだ。
デュアンは、冷たい目をジークに向けた。
「殿下にも後日、お話を聞かせていただきます」
「ああ、いくらでも話してやる」
ザッザッと音を立てながら、デュアンの足音が遠のいていく。
もうこの場には用はないとでも言うようにジークも歩き出した。そして、ロアンナの横を通りすぎるときニヤッと口端を上げる。
「英雄の能力が使えなくなったおまえは、何ができるんだ?」
リボンを燃やしたことで、ロアンナの力が失われたと勝手な妄想をしているようだ。
ロアンナはジークを見ずに、まっすぐ前を向いたまま尋ねた。
「侍女長は、あなたの乳母だったのではないのですか?」
子どもの頃から共にいて、少しの情もないのかと問い詰めたい気持ちをグッと抑え込む。そんなロアンナを小馬鹿にするように、ジークは鼻で笑った。
「最後に私の役に立てたのだ。侍女長も喜んでいるだろうよ」
ジークの不快な笑い声が聞こえなくなった頃、幽霊ライズの小さな手がロアンナの手に重なる。
『ロアンナ様……。あまり握りしめると』
怒りのあまり両手を強く握っていたようだ。ロアンナがゆっくり手を開くと、爪が手のひらに食い込んで赤くなっていた。落ち着かなくてはと思い、深く息を吐く。
ライズのおかげで気持ちを切り替えることができたロアンナは、背後に控えていたエリーとレイを振り返り「私達も戻りましょう」と告げた。
飛んでいるライズは、なんだかフラフラしていて危なっかしい。
『力及ばず、申し訳ありません。まさか、あそこまで追い詰めた状態で、ジーク殿下を仕留め損ねるなんて……』
『さっきも伝えたけど、ライズさんが謝る必要はないわ。あなたがいたから、ここまで追い詰めることができたのよ。ありがとう』
『ロアンナ様……』
フルフルと体を震わせながら感動しているライズを見て、ロアンナは口元を緩める。
『それに、うまくいかなければ、うまくいくまで、いろんな方法を試すだけ、そうでしょう?』
パァッと顔色を明るくしたライズは『はい!』と元気なお返事をした。
*
次の日の朝。
カーテンの隙間から差し込む光の眩しさに、ロアンナはほんの少しだけ目を開けた。
昨晩の疲れが出ているのか、全身がだるく感じるし、侍女長のことを思うと心も重苦しい。しかし、ロアンナはこのままベッドの上で、ゆっくりするわけにはいかなかった。
事実上、王太子宮を管理していた侍女長が、騎士団に捕らえられたということは、王太子宮の管理権限が、ロアンナに戻ってきたということでもある。
(今日から忙しくなるわね)
管理権限を得たことは喜ばしいが、捕まった侍女長はどうなるのだろうか。そんな考えを振り払うように、ロアンナは首を左右に振った。
そのとき、寝室の扉がノックされ、エリーが飛び込んできた。
「お姉様、おはようございます! すぐに朝の身支度の準備をいたしますね。その前に、こちらを」
そう言いながら手紙を差し出すエリーの手はかすかに震えていた。封蝋に押されている紋章は、王家のものだ。
(エリーが震えるほどの王族……。ジーク殿下ではないでしょうね)
手紙を受け取り、差出人を見たロアンナは目を大きく見開いた。
「本日中に王妃様が、私に会いに王太子宮に来られるそうよ」
「えっ!? で、では、今日はワンピースではなくドレスに着替えますか?」
「そうね。思いっきり着飾ってちょうだい」
「分かりました!」
一人になったロアンナは、心の中でライズに呼びかけた。
『ライズさん、いるかしら?』
『はい』
壁をすり抜けて、スゥとライズが姿を現す。
『この手紙を見てほしいの』
不思議そうにフワフワと近づいてきたライズは、手紙を覗き込んだ。
『あなたは、ジーク殿下を仕留め損ねたと言っていたけど、どうやら違ったみたいよ』
手紙には昨晩、捕らえられた侍女長について話があると書かれている。
『王妃様、直々に?』
『そう。どうやら、私達は殿下よりさらに大物を、同じ戦場に引きずり出すことに成功していたようね』



