エリーがロアンナの手に落ちてからというもの、ジークは己の内に湧き上がる怒りを抑えるのに苦労していた。
あのときの屈辱は、忘れようとしても忘れることができない。ふとしたときに思い出しては、声を荒げてしまう。夜もなかなか寝付くことができなくて、疲労は溜まっていく一方だ。
それだけではなく、王太子宮内の雰囲気がどうもおかしい。
ジークは、まるで一挙一動を使用人達から監視されているような、居心地の悪さを感じていた。そして、ジークに侍っていた残りのお飾りメイドの態度も変わった。以前なら四六時中ジークの側にいたのに、今はお茶の時間が終わるとどこかに消えていく。
(何が起こっているんだ……?)
侍女長を呼び出して問い詰めても、解決策が分からないようで「今後は、使用人達の態度を改めさせます」と要領を得ない言葉が返ってくるだけ。
(こんなときエリーなら、私を心配して一緒に解決策を考えてくれたのに)
――ジーク様。大丈夫ですか?
――それは大変でしたね。こうしてみては、どうですか?
そんなエリーの優しい声が懐かしい。
(代わりなどいくらでもいると思っていたが)
自ら捨ててしまったものの本当の価値に、ジークは今さらながらに気がついた。しかし、エリーはもうロアンナ側についてしまっている。取り返そうと思っても、いい案が思いつかない。
そんなある日、三人いたはずのお飾りメイドが二人になっていた。ジークがその理由を尋ねると、お飾りメイド達は困ったように顔を見合わせる。
「私達も止めたのですが……」
「彼女は、ロアンナ様の元へ行くと」
「はぁ!?」
ジークの出した大声に、お飾りメイド達の肩がビクッと怯えるように跳ねた。
「なぜだ!?」
「り、理由は分かりません」
「私達はそう聞いただけで……」
ガタガタと震えるお飾りメイド達を、これ以上問い詰めるわけにもいかない。
ジークはため息をつきながら、内心で悪態をついた。
(またロアンナか! あの卑怯な女を、一刻も早く王太子宮内から排除しなければ!)
ジークは笑みを顔に貼りつけながら、お飾りメイド達に話しかけた。
「君達も知っていると思うが、私は今すぐにでもロアンナと婚約を破棄したいんだ。何かいい方法はないかな? いい案を出してくれたら、褒美を授けよう」
意味ありげに視線を交わすお飾りメイド達に、イライラしながらもジークは言葉を待った。
「で、でしたら、情報屋に聞いてみるのはどうでしょうか? お金を払ってロアンナ様の弱みになるような情報を仕入れるのです」
「なるほど」
少しも期待していなかったが予想外に役立つ意見を聞けて、ジークは満足する。
「やってみるか……」
すぐにお飾りメイド達を下げ、代わりに侍女長を呼んだ。
「侍女長。情報屋を使って、ロアンナの弱みを探ってくれ」
そう伝えると、侍女長は珍しく動揺する。
「王家に仕えている情報屋は、国王陛下の命令なく動かすことはできません。私ではどうしようも……」
「違う、そうじゃない!」
「では、街の情報屋を使うおつもりですか?」
「そうだ。金ならいくら積んでもかまわない」
「かしこまりました」
礼儀正しく頭を下げて出ていった侍女長は、金の力が効いたのか、数日後には情報を持ち帰りジークに報告した。
「ロアンナが子どもの頃、見えない何かと話していた、だと?」
侍女長は静かに頷く。
「はい。おそらくすでに失われたと言われている【英雄の能力】を持っている可能性が高いとのことです」
「そのせいか!」
今までどんな無理難題を出しても、ロアンナは涼しい顔で解決してきた。思い返せば、その際にロアンナの言動がおかしかったことが多々ある。
「あのとき、何かしらの能力を使っていたのか……。なんて卑怯な! その忌々しい能力をどうにかできないのか?」
「実は、クラウチ侯爵家が昔、神殿に多額の献金をして何かを取り寄せたらしいのです。それが何かまでは分からなかったのですが、情報屋が言うには能力をコントロールするためのアイテムではないかと」
ジークの表情がパァと明るくなる。
「それを奪えばロアンナの能力を封じ込めることができるのだな?」
「おそらく」
「さっそく、そのアイテムが何かを調べてくれ!」
「それが、ロアンナ様の入浴を手伝っているメイドが、安っぽいピンク色のリボンを大切そうに宝石箱に入れているのを見たことがあり、おかしいと思っていたそうです」
「ピンクのリボン……」
言われてみれば、馬の早がけ勝負のときに、ロアンナが髪にリボンをつけていたような気がする。
「あれがそうだったのか。あれを奪えば……」
あのときの屈辱は、忘れようとしても忘れることができない。ふとしたときに思い出しては、声を荒げてしまう。夜もなかなか寝付くことができなくて、疲労は溜まっていく一方だ。
それだけではなく、王太子宮内の雰囲気がどうもおかしい。
ジークは、まるで一挙一動を使用人達から監視されているような、居心地の悪さを感じていた。そして、ジークに侍っていた残りのお飾りメイドの態度も変わった。以前なら四六時中ジークの側にいたのに、今はお茶の時間が終わるとどこかに消えていく。
(何が起こっているんだ……?)
侍女長を呼び出して問い詰めても、解決策が分からないようで「今後は、使用人達の態度を改めさせます」と要領を得ない言葉が返ってくるだけ。
(こんなときエリーなら、私を心配して一緒に解決策を考えてくれたのに)
――ジーク様。大丈夫ですか?
――それは大変でしたね。こうしてみては、どうですか?
そんなエリーの優しい声が懐かしい。
(代わりなどいくらでもいると思っていたが)
自ら捨ててしまったものの本当の価値に、ジークは今さらながらに気がついた。しかし、エリーはもうロアンナ側についてしまっている。取り返そうと思っても、いい案が思いつかない。
そんなある日、三人いたはずのお飾りメイドが二人になっていた。ジークがその理由を尋ねると、お飾りメイド達は困ったように顔を見合わせる。
「私達も止めたのですが……」
「彼女は、ロアンナ様の元へ行くと」
「はぁ!?」
ジークの出した大声に、お飾りメイド達の肩がビクッと怯えるように跳ねた。
「なぜだ!?」
「り、理由は分かりません」
「私達はそう聞いただけで……」
ガタガタと震えるお飾りメイド達を、これ以上問い詰めるわけにもいかない。
ジークはため息をつきながら、内心で悪態をついた。
(またロアンナか! あの卑怯な女を、一刻も早く王太子宮内から排除しなければ!)
ジークは笑みを顔に貼りつけながら、お飾りメイド達に話しかけた。
「君達も知っていると思うが、私は今すぐにでもロアンナと婚約を破棄したいんだ。何かいい方法はないかな? いい案を出してくれたら、褒美を授けよう」
意味ありげに視線を交わすお飾りメイド達に、イライラしながらもジークは言葉を待った。
「で、でしたら、情報屋に聞いてみるのはどうでしょうか? お金を払ってロアンナ様の弱みになるような情報を仕入れるのです」
「なるほど」
少しも期待していなかったが予想外に役立つ意見を聞けて、ジークは満足する。
「やってみるか……」
すぐにお飾りメイド達を下げ、代わりに侍女長を呼んだ。
「侍女長。情報屋を使って、ロアンナの弱みを探ってくれ」
そう伝えると、侍女長は珍しく動揺する。
「王家に仕えている情報屋は、国王陛下の命令なく動かすことはできません。私ではどうしようも……」
「違う、そうじゃない!」
「では、街の情報屋を使うおつもりですか?」
「そうだ。金ならいくら積んでもかまわない」
「かしこまりました」
礼儀正しく頭を下げて出ていった侍女長は、金の力が効いたのか、数日後には情報を持ち帰りジークに報告した。
「ロアンナが子どもの頃、見えない何かと話していた、だと?」
侍女長は静かに頷く。
「はい。おそらくすでに失われたと言われている【英雄の能力】を持っている可能性が高いとのことです」
「そのせいか!」
今までどんな無理難題を出しても、ロアンナは涼しい顔で解決してきた。思い返せば、その際にロアンナの言動がおかしかったことが多々ある。
「あのとき、何かしらの能力を使っていたのか……。なんて卑怯な! その忌々しい能力をどうにかできないのか?」
「実は、クラウチ侯爵家が昔、神殿に多額の献金をして何かを取り寄せたらしいのです。それが何かまでは分からなかったのですが、情報屋が言うには能力をコントロールするためのアイテムではないかと」
ジークの表情がパァと明るくなる。
「それを奪えばロアンナの能力を封じ込めることができるのだな?」
「おそらく」
「さっそく、そのアイテムが何かを調べてくれ!」
「それが、ロアンナ様の入浴を手伝っているメイドが、安っぽいピンク色のリボンを大切そうに宝石箱に入れているのを見たことがあり、おかしいと思っていたそうです」
「ピンクのリボン……」
言われてみれば、馬の早がけ勝負のときに、ロアンナが髪にリボンをつけていたような気がする。
「あれがそうだったのか。あれを奪えば……」



