軍神悪役令嬢ロアンナの救国譚 ~英雄の能力と幽霊の知識を借りて、勝利をつかみ取ります~【書籍1巻発売中】

『はい!』と元気なお返事をしたライズは、両手をピョコピョコ動かしながら説明を始める。

『これまでのジーク殿下を見る限り、殿下はとても頭がいい方のように思います。越えてはいけないラインをよく分かっているというか……』
「確かにね」

 ジークが王宮のルールを無視して感情のままに動くような人間なら、早々に婚約破棄できたはずだ。しかし、ジークからロアンナへの無理難題は、あくまで「王太子妃に相応しい者には、これくらいの能力を求めます」と見せかけた上での嫌がらせだった。

『ジーク殿下は無理難題を出すことにより、ロアンナ様が失態を犯すように誘導しています。しかも、自分は常に安全な場所にいて、ロアンナ様を他の人と競わせているのです』

 ロアンナはハッとなった。ライズの言う通り、バラ園の整備ではお飾りメイドのエリーと。馬の早駆け勝負では王宮騎士団長のデュアンと競わされた。

『このやり方なら、うまくいこうがいくまいがジーク殿下は無傷です。現状では、ロアンナ様とジーク殿下は、同じ戦場にすら立っていません』
「なるほどね。じゃあ、どうすればいいのかしら?」

 ライズのつぶらな瞳が、まるで悪だくみをしているかのように細くなる。

『ジーク殿下を無理やり同じ戦場に引きずり出してやりましょう』
「何か考えがあるのね。教えてくれる?」

 ロアンナのお願いに、ライズはコクリと全身で頷く。

『異世界では、城に籠っている敵を戦場におびき出して、相手をボコボコにした戦いがありまして』

 ライズは小さな手で、シュッシュッと殴る動作をしている。

『諸説あるのでこれが正解だとは言えませんが、センゴクダイミョウ(戦国大名)……えっと、この世界で言う領主かな? その領主達の戦いで、籠城戦(ろうじょうせん)をしようとしていたトクガワ イエヤス(徳川家康)の城を、タケダ シンゲン(武田信玄)があえて無視して素通りすることにより相手を挑発して誘き出したという説があるんです』

 素通りされたトクガワ イエヤスは、城から出てタケダ シンゲンを背後から奇襲しようとした。しかし、打って出た先ではタケダ シンゲンが待ち構えていたため、討ち死に寸前まで追い詰められ大敗を期した、とライズは説明を続ける。

『これを応用して、まずジーク殿下を徹底的に挑発します。それと同時に、相手に今、城から出てきて攻撃すれば勝てると思わせるのです』
「私達は、それを待ち構えて倒すのね?」
『そうです!』

 ライズの言う通り、これまでのやり方ではジークと対等に話すことすらできていない。ロアンナは覚悟を決めた。

「それ、やりましょう。となると、ジーク殿下を挑発する方法を考えないとね」
『あっ、それも案がありまして……。うまくいくかどうかは、エリーさん次第なんですけど』

 そのとき、ロアンナの部屋の扉がノックされ、弟のレイが入ってきた。

「姉さん。エリーさんが目覚めたよ。姉さんに会いたいって言ってるけど、どうする?」
『ちょうど良かったです!』

 ライズは、作戦をロアンナに耳打ちする。

『という感じなんですけど、どうでしょうか?』

 作戦を聞いている間にも、激怒しているジークが思い浮かんで、ロアンナは苦笑した。

「それが成功するかは、確かにエリー様次第ね。やるだけやってみましょう」