軍神悪役令嬢ロアンナの救国譚 ~英雄の能力と幽霊の知識を借りて、勝利をつかみ取ります~【書籍1巻発売中】

 ロアンナが目覚めた頃には、幽霊ライズの姿はなかった。

(ライズさん、自分の身体を確認しに行ったようね)

 辺境伯領が栄えていたのは過去の話で、今は過疎化していると言っても、さすがに当主の不在は許されないだろう。

(いい結果になればいいけど……)

 そんなことを思いながら、ロアンナは珍しく穏やかな一日を過ごしていた。

 婚約者のジークが無理難題を言ってこないと、こんなにも平穏に過ごせるのかと感心してしまう。それに、王太子宮の中に弟レイという信頼できる味方ができたことも、ロアンナの心の余裕に繋がっていた。

 部屋でのんびりとお茶を飲んでいるロアンナの元にライズが飛び込んできたのは、昼をだいぶ過ぎた頃だった。

 ライズの身体は真っ青だ。つぶらな瞳には、涙までにじんでいる。

(これは……。いい結果ではなかったようね)

 なんて言葉をかけたらいいのか、ロアンナは分からない。ただ、少しでもライズが落ち着けるように、その言葉をしっかり受け止めようと思った。

『ロ、ロアンナ様』

 ライズの声は震えている。

『俺の身体、知らないやつに乗っ取られていました!』
「……え?」

 生きているのか、死んでいるのかの二択だったのに、予想外の答えが出てきてしまいロアンナは戸惑った。

『この場合、どうしたらいいんでしょうか!?』
「そのパターンは、考えていなかったわ」
『ええっ⁉ 俺はいったいどうすれば……』
「ライズさん。とりあえず、落ち着きましょう」
『は、はい』

 ライズは深呼吸して、丸い身体を膨らませる。

「身体を乗っ取られている……。ようするにそれは、ライズさんがレイの身体を借りたときと同じ状態よね?」
『あっ!』

 ライズは本人の意志でレイの身体から出てきたが、もし居座っていたらレイの身体を乗っ取ることができた。

『ということは、俺の身体を乗っ取っている幽霊を追い出したら、元の身体に戻れるってことですか!?』
「その可能性が高いわ」
『でも、どうやって追い出せばいいんでしょうか?』
「うーん。私に憑りついた幽霊なら、私の意志で追い出せるんだけど。他の方法は……」

 レイのネックレスは幽霊を弾き飛ばすが、憑りついた状態のライズを弾き飛ばすことはなかった。

「今までの経験上、幽霊は生前の後悔や未練がなくなるとお空に行くから、その手伝いをするとか?」
『なるほど! では、さっそく!』

 飛んでいこうとするライズを、ロアンナが引き留める。

「幽霊が見えない相手に、どうお手伝いするつもりなの?」
『あ、あーそうですね!? となると、もうロアンナ様に助けていただくしか……』

 申し訳なさそうな顔をしているライズに、ロアンナは微笑みかけた。

「初めからそのつもりよ。あなたにはこれまで何度も助けてもらったのだから、お礼をしないとね」
『ロアンナ様……』

 感動したライズは、決心したように両手をグッと握りしめる。

『でしたら、俺も引き続き全力でロアンナ様のお役にたてるように頑張ります! まず、王太子宮の管理権限を取り戻し、正常な状態にしましょう。そうしないと、ロアンナ様は安心してノアマン辺境伯領に来れないですもんね!』
「そうね。あなたの身体を取り戻すためにも、まずは私が自由に動けるようにならないとね。私達、もう一度協力しましょう」

 幽霊のライズと握手はできないのでロアンナは手のひらをライズに向けた。その手にハイタッチするように小さな手が重なる。

『さっそくですが、俺がいない間にジーク殿下に動きはありましたか?』
「いいえ、今日は平和だったわ。昨日私にやり込められたばかりだし、しばらく大人しくしているんじゃないかしら?」

 これまでもジークに出された無理難題をクリアしたあと、ジークはしばらく大人しくしていた。

『お話を聞く限り、ロアンナ様はこれまで防戦一方だったように思います。王太子宮という敵地の真っただ中で、援軍のこない籠城戦(ろうじょうせん)を何年も続けるような日々は、さぞおつらかったでしょう』

(私はつらかったのかしら?)

 王太子宮に来てからは、自分自身とクラウチ侯爵家の名誉を守るために必死だった。弱みを見せないように気を張り感情に蓋をしたせいか、ロアンナはもう自分がつらいのかどうかすら、よく分からなくなっていた。

『耐える日々は終わりです。こちらから反撃に出ましょう』

 やる気満々のライズを見て、ロアンナはクスッと笑う。

「では、ライズさんの考えを聞かせてもらいましょうか」