時戻師の砂時計

 時戻師――その名の通り、時を戻すことができる人物らしい。
 0時ちょうどにエレベーターを降りると、時戻師の店に通じる。
 その噂を信じて、わたしはエレベーターに乗り込んだ。
 心臓がドキドキする。腕時計の両針が真上を指したのと同時にエレベーターを降りた。
 薄暗がりの中歩いていけば、大きな扉があった。
 扉をゆっくりと開ける。するとそこには、辺り一面に時計が浮かんでいた。
 時計をいじっていた人物がこちらを振り返る。その人物に、わたしは話し掛けた。
「あなたが時戻師?」
「ええ、そうですよ」
「時を戻してほしいのだけど」
「時を戻してどうするつもりですか?」
 そう、時戻師が訊ねてきた。
 ――わたしの願いはただ一つ。
「幼なじみが交通事故に遭って亡くなってしまって……時を戻して、彼を助けたいの」
「なるほど……時を戻す対価が、あなたの魂を削ることでもですか?」
「ええ。構わないわ」
 彼が交通事故に遭う前に戻って、彼を助け出す。そのためなら、何を支払っても構わない。
「では、まずは対価をいただきましょう」
 時戻師が手をかざす。すると、わたしの中から何かが抜けていく感覚がした。一瞬ふらつきかけたがぐっと堪えた。
「確かに、あなたの魂の一部はいただきました」
 そう言った後、時戻師は懐から小さな箱を取り出した。
 時戻師が箱を開けると、そこには中央がくびれた形をしたガラスの容器が入っていた。
「……砂時計?」
 でも、中には砂が入っていなかった。
「この砂時計を使っている間だけ、あなたは過去に戻れますよ」
「それじゃあ……!」
 ――これで、彼を救える!
 喜ぶわたしに、ただし、と時戻師が告げる。
「この砂時計を使いたければ、砂の代わりを用意しなければなりません。この中にあなたの幼なじみの遺骨を砕いて入れる必要があります」
「彼の、遺骨を使う……」
 わたしの呟きは、時計の音によってかき消された。
 彼の遺骨は既にお墓に納骨されてしまっている。彼を弔うために、お墓に花を供えたばかりだった。
 でも、時を戻す砂時計を使うためには、お墓を暴き、この手で大切な彼の遺骨を砕かなければならない。
「あなたに、それができますか?」
 無言のわたしに、まるで試すように時戻師が言った。
 彼とまた会えるのなら、わたしは――