吹き飛べ私の魔法

夏休みが終わって、学校が始まってみれば、今までと大してと変わらない日常が流れていた。

ただ、色恋沙汰に敏感な思春期の学生達のおかげで、晴来と咲希の関係は即日で噂として広がっていった。

「ゆいーお昼ご飯食べよー」

四時間目の終わりと同時に、いつも通りに咲希が私を呼ぶ。

けれど、私は気になって聞いてみる。

「晴来と一緒に食べなくていいの」

聞くと、咲希は顔の前で手のひらを横に振りながら、

「いいのいいの。なんか噂で広まっちゃったみたいだし、恥ずかしいからまた今度にしよって話してたんだ」

と言って私の隣の席に座り込んだ。

「それよりさ、遊園地行った日。勝手に帰ったでしょ。気づいたら唯が居なくなってて心配したんだからね」

そういえばあの後二人に連絡を入れようと思って、忘れてしまっていた。

「ごめん。でも咲希の方が死ぬんじゃないかってくらい泣いてて心配だったよ」

咲希が晴来に抱きついていたところを思い出しながら、言ってみる。

「人の恥ずかしいところ思い出させんなー」

恥ずかしがる咲希を見て、してやったと思い、うひひっと笑う。それにつられて咲希も豪快に笑った。

すると突然、鏡華が私たちのところに近寄ってくるのがわかった。

咲希が先程の笑顔から打って変わって、彼女に険しい表情を向ける。

けれど、吐き出された言葉は、意外にも、優しいものだった。

「この前の唯さんへの態度、私、悪いと思ってる。だから、もう一度しっかり謝らせて欲しいの。本当にごめんなさい」

そう言って、深々と頭を下げる鏡華。予想外の展開に、咲希と私が呆然としていると、彼女が顔を上げて、また喋りだした。

「それで、お詫びに持ってきたの」

そう言って見せられたのは"吹き飛べ私の魔法"と書かれた一冊の本。

「弁償と言ったらなんだけど、プレミア付きの初版本よ。一瞬だけ、作者の名前が間違って前の名義で発行されていたらしいの」

初めて知った。

こんなニッチな話を知っているなんて、もしかしたら鏡華も本が好きなのかもしれない。

そうしたら、案外仲良くなれたり……。

気のいいことを考えながら、そんな妄想をふくらませていると、突然飛んできた大きな声によって現実に引き戻された。

「え!吹き飛べ私の魔法の初版!?」

言いながら、横から顔を出して来た晴来。相変わらず後ろには小林くん他三名ほどを連れている。

「ま、おれ直筆サイン入り持ってるけどな」

晴来が再度続けて、にやにやとした笑みを浮かべた。

「ちょっと!それは内緒でしょ!」

それに、何やら事情を知っているらしい咲希が晴来を制止する。

噂のせいで一緒にいるの恥ずかしいんじゃなかったのかと思いながら、私は2人に微笑ましい目を向ける。

まだ完全に晴来への想いを忘れられたわけではないけれど、この様子を見ていると、どうも気持ちが和んで簡単に吹っ切れてしまいそうだった。

そんなふうに物思いに耽って、二人から目を離すと、終始居心地が悪そうにしている鏡華と目が合った。

慌てて思い出したように向き直り、ありがとうとひと言お礼を言いながら、本を受け取る。

けれど、私はその著者欄を見た途端、魔法にかかったみたいに、身体が固まってしまった。

本山咲希/著