キャンディ

3月7日、土曜日。
私はただ、春物の一着でも見ようと思って、ショッピングモールに来ただけだった。
なのに、エスカレーターを降りた正面には、パステルカラーの看板とリボンの山。

「……あ、そうか。もう一ヶ月経つんだ」

立ち止まるほどじゃないけど、歩く速度が少しだけ落ちる。

バレンタインの当日、渡せなかったあのチョコ。

結局、放課後に自分の部屋で、動画を見ながらひとりで食べたんだっけ。
結構高いやつを選んだはずなのに、味はあんまり覚えてない。ただ、飲み込むときにちょっとだけ喉に引っかかるような、変な甘苦さだけが残っている気がした。

ショーウィンドウに並ぶ明るい色のスカートを眺めても、なんだかピンとこない。

「……今日は、いいかな」

私は自分に言い聞かせるように、華やかな売り場に背を向けた。