中身の有無


夜の九時を過ぎた頃。
今夜も門限を破った中学一年のマサキは、一人で夜道を歩いていた。
何度も入っていた母からの着信履歴を眺めるも、折り返し電話はかけることなくスマホをポケットにしまう。
悪びれない顔を上げたマサキが、不意に立ち止まった。
「……なんだ、あれ?」
五メートルほど離れた道の真ん中に、長四角い物体が置かれていた。
自宅はその先にある。マサキは不審に思いながら近づくとその正体がすぐにわかった。
「……(ひつぎ)……⁉︎」
蓋に特徴的な小窓がついている木製の棺だった。
親戚の葬式で一度だけ見たことがあるくらいで、実際に実物を見る機会は少ない。
そんなものがなぜ道の真ん中に置かれているのか。
場違いなところに存在する棺に、マサキはごくりと唾を飲み込み鼓動を加速させた。
運送中の車から落ちたと考えたが破損は見当たらない。となると誰かが故意に置いたイタズラかもしれない。
それよりももっと重要なことは、その中身だ。
「……いや、そんなまさか……」
マサキは笑いながら首を振る。
棺は亡くなった人を収めるもの。万が一遺体が入っているとなれば由々しき事態だ。
そこでマサキが考えはじめた。
こんな前代未聞の出来事が小さな町で起きたら、たちまちニュースになって世間の注目を浴びる。
第一通報者の自分はマスコミからインタビューを求められ、一躍学校の有名人になれるはず。
恐怖心よりも承認欲求が優先され、さらには“中身があってほしい”と願った。
マサキは背筋をぞくぞくさせて微笑むと、スマホ片手に近づいていく。
棺の目の前で立ち止まり、そっと小窓に手を伸ばしたその時。
バン!という大きな音を響かせて棺の蓋が空高く飛び上がった。
「うわあ!」
驚いて仰け反ったマサキが尻餅をつく。痛みに耐える顔を上げ、さらに驚愕した。
棺はいつの間にか縦となって自立しており、中身が空であることを主張しながらじりじりと迫ってきた。
棺に目はないのに、まるで見下ろされているような感覚に陥ったマサキは金縛りにあう。
街灯を背にする棺が長い影を落とした。
「……な、なんだよこれ……!」
恐怖と焦りで涙目になるマサキを呑み込むようにして、勢いよく棺が倒れた。
周囲が静寂に包まれると、棺は跡形もなく姿を消した。

今宵もどこかの町で彷徨っているかもしれない。
(ひつぎ)(ひつぎ)となるために――。