氷の令嬢は、最強(?)総長の『子守役』を命じられる

翌日、学校は「球技大会」の熱気に包まれていた。
 種目はクラス対抗のバスケットボール。運動神経抜群(に見える)龍崎は、当然のようにクラスの期待を一身に背負っている。
「……実花、お腹痛くなってきた。俺、やっぱり無理。シュートなんて打てない、女子の視線が突き刺さって死ぬ……」
「シャキッとしなさい! ほら、背中丸めない。あんたは『最強の総長』でしょ?」
 私は体育館の裏で、ガタガタ震える龍崎の背中をバチンと叩いた。
 彼は「ひいっ!」と短い悲鳴を上げつつも、私の顔を見て、無理やり口角を上げる。
「……そうだよな。実花に、情けないところ見せたくねえし」
 その時、校内放送が流れた。
『――至急、2年A組の如月実花さん。生徒会室まで来てください。書類の不備について確認があります』
 このタイミングで?
 嫌な予感が胸をよぎったけれど、一ノ瀬会長の呼び出しを無視するわけにもいかない。
「……龍崎くん。すぐ戻るから、変なことしないでよ?」
「おう、任せとけ。俺、頑張るからな!」
 そう言って笑った彼の顔を信じて、私は生徒会室へ向かった。
 けれど、重い扉を開けた先に待っていたのは、書類の山ではなく――ソファに深く腰掛け、ティーカップを傾ける一ノ瀬の姿だった。
「……書類の不備なんて、嘘ですよね?」
「察しがいいね、実花さん。君をここに呼んだのは、彼が『本物』かどうかを見極めるためだよ」
 一ノ瀬がリモコンを操作すると、壁のモニターに体育館のライブ映像が映し出された。
 そこには、試合直前の龍崎の姿。……けれど、彼の周囲を囲んでいるのは、味方のチームメイトではなく、他校の制服を着たガラの悪い男たちだった。
「なっ……! あれは、『黒龍』の敵対勢力……!?」
「僕が少し情報を流したんだ。『最強の総長が、今日は女を連れずに一人でいる』ってね」
 画面の中、龍崎は男たちに囲まれ、青ざめている。
 助けを呼ぼうとする私の腕を一ノ瀬が掴み、強引に引き寄せた。
「行かせないよ。彼が本当に君を愛しているなら、あの『女性恐怖症』と『ヘタレ』をかなぐり捨てて、力で解決してみせるはずだ。……でも、無理だろうね。彼はただの偽物だ」
 一ノ瀬の冷たい指先が、私の頬をなぞる。
「見てなよ。君が信じている男が、無様に逃げ出すところを」
 モニターの中、男の一人が龍崎の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。
 私の心臓が、早鐘を打つ。
(龍崎くん……逃げて! じゃない、戦って……!)
 叫びたい声を抑え、私は食い入るように画面を見つめた。
 その時、龍崎の目が、一瞬だけカメラ越しに私を捉えたような気がした。
いかがでしょうか?一ノ瀬の用意周到な「嫌がらせ」と、絶体絶命の龍崎。一ノ瀬の実花への執着が「試練」という形で二人に襲いかかります。