氷の令嬢は、最強(?)総長の『子守役』を命じられる

 放課後。全校生徒が部活動に励む喧騒を背に、私は図書室の奥にある資料室の扉を開けた。
 そこには、昨日の威勢はどこへやら、パイプ椅子に小さくなって座る龍崎蓮の姿があった。
「……遅いぞ、実花。俺、もう限界……。女子生徒に『龍崎さん、かっこいいです!』って話しかけられて、泡吹いて倒れるかと思った……」
「はいはい、お疲れ様。よく耐えたわね、ポチ……じゃなくて、龍崎くん」
 私は彼の隣に座り、買ってきたメロンパンを机に置いた。
 龍崎はそれをひったくるように受け取ると、リスのように頬張る。この男、強面なくせに甘いものが好きらしい。
「あのさ、実花……。なんで俺の『更生』なんて手伝うんだ? 秘密をバラして、俺を追い出すことだってできたはずだろ」
「言ったでしょ。私の特待生枠を守るためよ。あんたみたいな『学校一の問題児』が、私の指導で更生して卒業したら、最高のボランティア実績になるでしょ?」
 私はわざと冷たく言い放つ。……本当は、昨日見た彼の涙があまりに純粋すぎて、放っておけなかっただけなんて、口が裂けても言えない。
「ふん……。相変わらず、計算高い女だな。……でも、ありがとな」
 不意に、龍崎が私の方を向いて笑った。
 セットが少し崩れた前髪の間から、優しげな瞳が覗く。その破壊力に、私の心臓が一瞬だけ変なリズムを刻んだ。
「っ……、笑ってないで特訓よ! はい、まずは私の目を見て、三秒間逸らさない。これができないと、他校の総長と睨み合いもできないでしょ」
「えっ!? いきなりハードル高すぎだろ! 実花、顔近いって……!」
 真っ赤になって後ずさる龍崎。私はそれを逃がさじと、彼の椅子の肘掛けを掴んで詰め寄った。
 その時だった。
「……お取込み中、失礼してもいいかな?」
 静かな声と共に、資料室のドアが開いた。
 そこに立っていたのは、生徒会長の一ノ瀬だ。彼は眼鏡の奥で、氷のように冷たく、けれど楽しげな光を宿した瞳で私たちを見つめていた。
「龍崎くん、君に少し話があるんだ。……昨日、君が旧校舎で『ウサギのぬいぐるみ』と話していた件について、ね」
 龍崎の顔から、一瞬で血の気が引いた。
 一ノ瀬は、逃げ場のない笑みを浮かべて一歩、部屋に踏み込んでくる。
「如月さんも、そんなヘタレな彼を守るために必死だね。でも、そんな『嘘の恋』、長くは続かないと思わないかい?」
 私と一ノ瀬の視線が、火花を散らす。
 王道の「王子様キャラ」かと思っていた生徒会長は、実は私たちの秘密を握り潰そうとする、最も危険な敵だった。