氷の令嬢は、最強(?)総長の『子守役』を命じられる

「……っ、やめて……一ノ瀬さん、お願い……っ!」
 押し殺した私の悲鳴は、冷たい小部屋の壁に虚しく跳ね返る。
 ブラウスは無残に肌を露出し、一ノ瀬の冷たい指先が私の太ももを割り、その奥へと侵食しようとしていた。
 恐怖と屈辱で全身が小刻みに震える。一ノ瀬は私の涙を指で拭い、陶酔しきった瞳で私の唇を奪おうと顔を近づけた。
「いい声だ、実花さん。君が僕を受け入れれば、あのヘタレな男は命だけは助かる。……さあ、彼のために、僕に抱かれなよ」
 彼の重みがのしかかり、絶望に目を閉じた、その時だった。
 ――ドゴォォォォン!!
 鼓膜を突き破るような爆音と共に、小部屋の重い扉が枠ごと吹き飛んだ。
 舞い上がる埃と火花の中、バイクのエンジン音を撒き散らしながら、一台の黒い塊が室内に突っ込んできたのだ。
「……てめぇ、その汚ねぇ手を……今すぐ離せッ!!」
 地獄の底から響くような、凄まじい怒号。
 そこにいたのは、決勝戦のユニフォームを泥だらけにし、拳から血を流しながら、愛車と共に壁をぶち破ってきた龍崎蓮だった。
「……龍崎、くん……?」
「ちっ、しぶとい男だね。試合を捨ててまで、ここを突き止めるとは」
 一ノ瀬は忌々しそうに私から身を離し、乱れた衣服を整えながら立ち上がった。
 龍崎はバイクを蹴り倒すと、弾かれたようにこちらへ駆け寄り、自分の特攻服を脱いで、震える私の体に乱暴に、けれど最高に優しく被せた。
「……遅くなって、ごめん。怖かったよな、実花……」
 その瞳は、いつものヘタレな色ではない。
 私を傷つけた一ノ瀬を、ただの一撃で消し去ろうとする『本物の獣』の目だった。
「龍崎くん、ダメ! 一ノ瀬さんは他校の奴らと繋がってて……!」
「関係ねえ。こいつが誰と繋がってようが、生徒会長だろうが……俺の女に指一本触れた報いは、その命で払ってもらう」
 龍崎が拳を固め、一ノ瀬に向かって踏み出す。
 完璧な王子を演じていた一ノ瀬も、初めて見る「本物の暴力」の威圧感に、顔を引き攣らせて後ずさった。
「来いよ、メガネ。……お前が愛とか抜かしたその口、二度と開けねえようにしてやる」
 ついに、最凶の総長と、エリートの最後の直接対決が幕を開ける。