意識が浮上したとき、最初に感じたのは手首に食い込むロープの感触と、コンクリートの冷たさだった。
薄暗い廃倉庫。埃っぽい空気の中に、不釣り合いなほど上質な香水の香りが漂っている。
「……気がついたかい、実花さん」
聞き覚えのある、穏やかで透き通った声。
顔を上げると、そこには完璧な制服姿の一ノ瀬会長が立っていた。彼は優雅に椅子に腰掛け、まるでお茶会でも楽しむかのように私を見つめている。
「……一ノ瀬、会長? どうしてここに……」
「君を助けに来たと言いたいところだけど、あいにく、ここは僕が用意した場所でね。外にいた彼らには、少しばかり『協力』してもらったんだ」
私の血の気が引いていくのが分かった。
他校の不良グループ。彼らが私をさらったのは、単なる復讐ではなかった。一ノ瀬が龍崎を排除し、私を自分のものにするために仕組んだ「舞台装置」だったのだ。
「……あんた、正気なの? これがバレたら、あんたの築き上げてきた地位も名誉も、全部おしまいよ」
「バレるはずがないよ。君は『体調不良』で欠席し、龍崎くんは試合に負けて自暴自棄になり、姿を消す。そこに、傷ついた君を優しく支える僕が現れる……。完璧なシナリオだと思わないかい?」
一ノ瀬は立ち上がり、私の前に跪いた。冷たい指先が、私の顎をすくい上げる。
「龍崎くんのような『野蛮な偽物』に、君はふさわしくない。君の知性、その気高さ……理解できるのは、この世界で僕だけだ。僕たちが結ばれるのは、必然なんだよ」
その瞳は、狂気じみた確信に満ちていた。
私は彼の手を振り払おうとしたけれど、自由のきかない体では、ただ彼を睨みつけることしかできない。
「……必然? 笑わせないで。あんたがやってることは、ただの誘拐よ。龍崎くんは……あいつはヘタレだけど、あんたみたいに人を道具にするような卑怯なことはしないわ!」
「まだそんなことを……。彼は今頃、君がいないコートで、僕のチームに無様に叩きのめされているよ。君が信じている『ヒーロー』なんて、どこにもいないんだ」
一ノ瀬の嘲笑が、倉庫の壁に反響する。
その時。
遠くで、微かにバイクのエンジン音が聞こえた気がした。
一ノ瀬の眉が、ピクリと跳ねる。
「……まさか。あいつ、試合を投げ出したのか?」
私は、震える唇で笑ってみせた。
「……言ったでしょ。あいつは、あんたのシナリオ通りには動かないわよ」
一ノ瀬の顔から余裕が消え、冷酷な『王』の表情が顔を出した。
薄暗い廃倉庫。埃っぽい空気の中に、不釣り合いなほど上質な香水の香りが漂っている。
「……気がついたかい、実花さん」
聞き覚えのある、穏やかで透き通った声。
顔を上げると、そこには完璧な制服姿の一ノ瀬会長が立っていた。彼は優雅に椅子に腰掛け、まるでお茶会でも楽しむかのように私を見つめている。
「……一ノ瀬、会長? どうしてここに……」
「君を助けに来たと言いたいところだけど、あいにく、ここは僕が用意した場所でね。外にいた彼らには、少しばかり『協力』してもらったんだ」
私の血の気が引いていくのが分かった。
他校の不良グループ。彼らが私をさらったのは、単なる復讐ではなかった。一ノ瀬が龍崎を排除し、私を自分のものにするために仕組んだ「舞台装置」だったのだ。
「……あんた、正気なの? これがバレたら、あんたの築き上げてきた地位も名誉も、全部おしまいよ」
「バレるはずがないよ。君は『体調不良』で欠席し、龍崎くんは試合に負けて自暴自棄になり、姿を消す。そこに、傷ついた君を優しく支える僕が現れる……。完璧なシナリオだと思わないかい?」
一ノ瀬は立ち上がり、私の前に跪いた。冷たい指先が、私の顎をすくい上げる。
「龍崎くんのような『野蛮な偽物』に、君はふさわしくない。君の知性、その気高さ……理解できるのは、この世界で僕だけだ。僕たちが結ばれるのは、必然なんだよ」
その瞳は、狂気じみた確信に満ちていた。
私は彼の手を振り払おうとしたけれど、自由のきかない体では、ただ彼を睨みつけることしかできない。
「……必然? 笑わせないで。あんたがやってることは、ただの誘拐よ。龍崎くんは……あいつはヘタレだけど、あんたみたいに人を道具にするような卑怯なことはしないわ!」
「まだそんなことを……。彼は今頃、君がいないコートで、僕のチームに無様に叩きのめされているよ。君が信じている『ヒーロー』なんて、どこにもいないんだ」
一ノ瀬の嘲笑が、倉庫の壁に反響する。
その時。
遠くで、微かにバイクのエンジン音が聞こえた気がした。
一ノ瀬の眉が、ピクリと跳ねる。
「……まさか。あいつ、試合を投げ出したのか?」
私は、震える唇で笑ってみせた。
「……言ったでしょ。あいつは、あんたのシナリオ通りには動かないわよ」
一ノ瀬の顔から余裕が消え、冷酷な『王』の表情が顔を出した。



