勝手に恋して


 勉強を始めて30分程が経った。
 いまだに俺は莉子や葉菜さんと話すことができていない。
 ぼんやりとそんなことを考えていると、葵先輩と葉菜さんが部屋を抜けた。トイレに行くと言って。
「今日はさ、遊びに誘ってくれてありがとう。」
 2人が部屋を出て、すぐに莉子はそう言った。
「いやいや、こちらこそ急に誘ったりなんかして、めっちゃ申し訳ない。」
 緊張して上手く話せているか不安だ。
「ううん。私なんかとLINE交換したいって言ってくれて、たくさんやり取りしてくれて、こんなにも優しい人はどんな子なのかなってずっと思ってた。だから今日は会って、話せて私は幸せ。」
 優しい笑顔で莉子はそう言った。胸の奥がじんと熱くなる。
 急に連絡先を交換され、遊びに誘って、向こうの気持ちなんか考えずに勝手に恋した自分を、莉子の言葉を聞くまでは後悔していた。
 でも、そんな俺を受け止めてくれた。
 あぁ、俺は莉子が好きだ。それは片想いじゃないと信じたい。
 少し前に恋バナをしたことを不意に思い出した。
 確か、俺が聞いた時、好きな人は特にいなくて彼氏もいないらしい。これはもしかしたら…。
「そんなこと言ってくれてほんとにありがと。ねえ、これからさちょっと抜け出さない?ここを。」
 えっ?と、言い、莉子は戸惑ったような表情をした。
 その後すぐに笑顔で静かに頷いてくれた。俺が一目惚れした人は優しくて可愛い人に間違いない、そう確信した。
 テーブルの上に少しココ離れます、と書き、屋上に出た。
 屋上は、暖かい日差しが差し込み、芝生とたくさんの花が広がっていた。
 周りには誰もいなかった。少し早く来てよかった。
「ねえ、莉子。」
「うん。蓮、どうしたの?」
 歩みを止め、莉子がこっちを向いた。“君”はもうどこか遠くへ飛んでいったようだ。まるで漫画やアニメの世界に見える。
 もう決心は決めた。
「練習試合で見つけた時からずっと好きでした。付き合って下さい。」
 右手を差し出した。
 恥ずかしさで体全体が熱くなる。顔や耳は赤くなり、手をグッと握っている左手は、手汗さえかいている。
「はい。私なんかに一目惚れしてくれて、たくさん私を愛してくれる蓮が大好きです。よろしくお願いします。」
 そう言って俺の手を取ってくれた。顔をゆっくり上げると、いつも通り優しい笑顔があった。成功した実感があまりないけど。
「じゃあみんなのとこ戻ろっか。」
「うん。」
 そう返事して、手を繋ぎ直して、みんなのところに戻った。

 もちろん葵先輩は驚き、喜んでくれ、葉菜さんも喜んでくれた。
 どうやら、2人は2人にさせるためにトイレに行くと言って抜けたらしい。優しい2人だ。
 こんなにも好きな莉子への気持ちは、勝手なんかじゃなくて、

 両想いだった。