どれくらいたったのか。
ある日ユメミさんが私を高い高いしながら、『鈴。待たせたね。帰る準備が整ったよ』と言った。
嬉しくて、でも寂しくて。また来れるかって聞いたら首を振られた。
帰りたくないと思ったけどお母さんに会いたいから、コタロウと最後の散歩をした。野原でいっぱい遊んで、最後に彼はシロツメクサの指輪を作って指にはめてくれる。
「俺、鈴のことが大好きだ」
「うん。私もコタロウが大好き」
会えなくなるのは嫌。
その言葉を飲み込んでぽろっと涙をこぼすと、コタロウは「大人になったら」と呟いたまま黙ってしまう。長いこと続きを待っていると、真っ赤になった彼は、
「夢見草の咲くころに会いに行く。そしたら俺の嫁さんになってくれないかな」
と、怒ってるみたいな声で言った。
「いいよ」
「本当に?」
「うん。そしたらまた会えるんでしょう?」
「うん。じゃあ約束だ」
「約束」
ほっとしたように笑って指切りをした。
私が帰るとき、どんどん周りの景色が消えていくのが怖かった。そんな中、見送りに来たユメミさんとコタロウだけが最後まで見えて――、気が付くとすべてを忘れた私は十年桜の根元に立っていたのだ。



