でも周りでは彼の友達がニヤニヤしてるし、女子は悲鳴を上げるしで、ようやく状況がつかめた。
余裕の笑みを浮かべるの二階堂君に、「ごめんなさい」と頭を下げたのがよくなかったのかな。プライドを傷つけたのかも。
一瞬にしてどす黒く染まった彼の顔は仁王のようで恐ろしく、私は思わず後ずさる。
でもなぜか文句を言ってきたのは、彼の友人たちや周りの女子の方。
二階堂君は必死に感情を押さえてくれた。掴まれた腕は痣が出来るくらい強かったけど、ハッと放してくれた時には「ごめん」って言ってくれたし。
でも、周りのひそひそ声の中に混ざる悪口の中に、「神隠し」の言葉が聞こえ、私は由衣ちゃんたちに手を引かれて足早にそこから去ったのだ。
私、九谷鈴は、少しだけ有名らしい。
理由は今から十年前。私が山で、二か月以上行方不明になったことがあるからだ。
山といっても、当時住んでいた祖父母の家のある場所で、消えたのは自宅の庭だったらしい。お母さんが洗濯物を干している横で遊んでいたはずの私が、ほんの少し目を離したすきに消えたという。
気が付いたときには十年桜の下に立っていた。
祖父母の家から少し離れた山頂近くにあるこの桜は、樹齢千年とも言われる大きな桜だ。でも滅多に花を咲かせることがなくなり、十年に一度くらいは満開の花を見せるというところから十年桜と呼ばれている。
その十年桜があの日、月夜を照らすように一斉に満開の花を咲かせた。
その根元にぽつんと立つ私を、たまたま夜桜を見に来ていた旅行者に発見されたのだ。



