空を知らない君に送る唄

その訓練場は、地下都市のさらに奥深くにある。

噴気孔のある⼤空洞で、壁には無数の⾦属⽚が突き刺さっている。

作り物とは思えないほど巨⼤な“影絵”のような異喰の模型を相⼿に、

新⼈たちが跳ぶ。

彼らの背中には、横⻑の装置が取り付けられていた。

レバーをひねると同時に圧縮された空気が低く唸り、次の瞬間、

ドンッ̶̶

鍛え上げた脚では到底届かない⾼さへ、⾝体が放り上げられる。

「102番、⽢いぞ!」

「ポインターに吸いつけ!⾜を伸ばせ!」

訓練⼠官が怒号を⾶ばす。

新⼈たちの⼿には、円盤状の⾦属⽚が乗っている。

それを“磁極砲”と呼ばれる銃に装填して射出すると、模型の頭部に

吸いつくように張り付いた。

空中で、指先についたサックを押す。

カチ。

隊服の磁⽯が⼀⻫に反応し、⾃分の射出したパッドへ吸い寄せられる。

次の瞬間には、巨体の頭部に⽴つかのように静⽌していた。

「……成、功だ」

ある少年が呟いたその声は、興奮よりも震えを帯びている。

⾼すぎる位置から⾒下ろす景⾊に、⾜がすくむからだ。

訓練⼠官は、そんな彼に⾔う。

「本番ではその⾼さから落ちれば死ぬ。ポインターが剥がれれば死ぬ。

空気が切れれば死ぬ。仲間のポインターに誤反応しても死ぬ。

異喰に掴まれたら̶̶瞬きする間に喰われて死ぬ。」

淡々と、事実だけを並べる声だった。

「だが、それでも上がりたいと思うのなら……お前はもう“地下の⼈間” じゃない」

新⼈は息をのみ、宙から地⾯を⾒下ろした。

空などない。

⾵もない。

あるのは汗と、湿った空気だけ。

だが̶̶胸が熱くなる。

「……空って、ほんとに⻘いんですか」

彼の問いに、⼠官は僅かに⽬を⾒開き、そしてゆっくり笑った。

「……それは⾃分の⽬で確かめろ。」

* * *

今⽇も、上進隊の昇降ゲートには明かりが灯る。

地上へ出る準備を整えた班が⼀つ、また⼀つと並ぶ。

特別な⾔葉はない。

英雄も名誉も、彼らには似合わない。

ただ̶̶

“空を知らない⼈類が、空へ挑みに⾏く”

その事実だけが、地下都市の胸を震わせる。

地上への扉が軋みをあげて開く。

⾵が吹く。

地下には存在しない、広すぎる気配が流れ込む。

誰かが息を呑んだ。

そして、ゆっくりと⾜⾳が響く。

空へ向かう⼈類の⾜⾳が。