だが――
⼝元には、薄く歪んだ笑み。
⼝⾓は確かに上がっているのに、瞳だけは凍りついたように冷たく、
底知れない嘲笑を湛えていた。
その視線に、澄華の背筋がぞくりと粟⽴つ。
(この⼈……)
本能が、危険だと告げていた。
澄華が⾝構え、重⼼を落とした、その瞬間。
凛が、静かに⼝を開いた。
「俺を⾏動不能にしてみろ。」
低く、淡々とした声。
命令でも挑発でもない、事実を述べるような⼝調。
「拘束するでも、半殺しにするでも、なんでもいい。」
⾔葉の意味が、じわじわと染み込んでくる。
「……え?」
最初に声を上げたのは陽⽃だった。
「っ、んなの不公平ですよ!!
班⻑、丸腰じゃないですか!!!」
陽⽃は⼀歩前に出て、慌てたように⼿を振る。
「下⼿したら、死んじゃい――」
その⾔葉が、最後まで紡がれることはなかった。
凛の表情から笑みが消える。
「――黙れ。」
低く、冷たい声。
空気が、⼀瞬で凍りつく。
陽⽃は喉を詰まらせたように息を⽌め、⾔葉を失った。
凛は⼀歩、前に出る。
丸腰のはずなのに、圧倒的な威圧感が、⼆⼈を押し潰す。
「……俺を殺すつもりで来い。」
その⾔葉は、冗談でも誇張でもなかった。
「地上じゃ、躊躇した瞬間に死ぬ。
敵が丸腰だからって、待ってくれると思うなよ。」
凛の視線が、澄華に向けられる。
「……俺は⾜⼿まといが欲しいんじゃねぇ。
役⽴たずを地上まで連れて⾏ってやる義理はねえからな。」
静かで、しかし確信に満ちた声だった。
「……だから試してやる。
お前らが、“⽣きる覚悟”を持ってるかどうかをな。」
澄華は、息を呑んだ。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
怖い。
確かに、怖い。
だがそれ以上に――
(……舐められてる。)
そう感じた。
凛の⾔葉の裏にあるのは、優しさでも指導でもない。
選別だ。
⾃分たちが、この男の隣に⽴つ資格があるかどうか。
澄華は、ゆっくりと息を吐いた。
指先がわずかに震えるのを、意志で押さえ込む。
「……分かりました。」
低く、しかしはっきりとした声。
陽⽃が驚いたように澄華を⾒る。
「ちょ、澄華……!?」
澄華は視線を逸らさない。
「……本気で⾏かせていただきます。」
その瞬間。
凛の⼝元が、ほんの僅かに吊り上がった。
「――来い。」
次の瞬間、空気が裂けた。
澄華は、全⼒で地⾯を蹴った。

