空を知らない君に贈る唄


澄華は、まだ湯気の⽴つコーヒーを⼀気に喉へ流し込むと、空になった

マグカップをトレーに戻した。

苦味と熱さが⼀瞬だけ喉を焼いたが、顔⾊⼀つ変えない。

そのまま無⾔で⽴ち上がり、腰に下げていたホルスターの位置を

調整する。

ベルトを締め直し、装置の留め具を⼀つひとつ確認する動きは、

すでに何度も繰り返してきた者のそれだった。

肩にかかっていた髪を⼿でまとめ、迷いなく⼀つに結い上げる。

「……?」

キョトンとした顔でこちらを⾒つめる陽⽃を完全に無視し、

澄華は⽞関へと向かった。
次の瞬間。

「ちょ、ちょちょちょちょっ!?

どこ⾏くんだよ!?!?」

ドタバタと慌ただしい⾜⾳を⽴てて、陽⽃が後ろから駆け寄ってくる。

澄華は⾜を⽌めず、靴を履きながら短く答えた。

「訓練。」

「……はぁ?」

陽⽃は完全に思考が追いついていない顔で、間の抜けた声を上げる。

「今から!?

いやいや、今もう18時だぞ!?さすがに今⽇はもう……」

「毎⽇⽋かさずやらないと意味ないでしょ。」

澄華は淡々と、事実を述べるように⾔った。

その声⾳には迷いも照れもなく、ただ“当たり前”という響きだけがあった。

陽⽃は⾔葉を失い、⼝を半開きにしたまま固まる。