その横で澄華は、無⾔で⼿を動かし始めた。
⼾棚に並んでいたマグカップを3つ取り出し、隣にあったインスタント
コーヒーの粉末をそれぞれのカップに⼊れる。
続けて、電気ケトルに⽔道⽔を注ぎ、スイッチを⼊れると、
数分も⽴たないうちに、じりじりとお湯が沸く⾳が⼩さく響いた。
湧きたてで湯気が⽴っている熱いお湯を慎重にマグカップに注ぎ込む。
ふんわりと漂うコーヒーの⾹りに、思わず、すん、と⿐をひくつかせ、
ほんの少しだけ微笑んだ。
澄華は⼩さめのトレーに、マグカップ3つと⾓砂糖の⼩瓶を載せ、
リビングのミニテーブルまで運ぶ。
凛はその動きに⽬を丸くして、思わず「……は?」と声を漏らした。
澄華は少し⾸を傾げながら、まっすぐに凛を⾒て尋ねる。
「班⻑は、⾓砂糖⼊れますか?」
その問いに、呆気にとられて固まっている凛よりも先に、
キッチンから戻ってきた陽⽃が元気よく答える。
「俺は3コ⼊れる派〜!」
澄華は、陽⽃の無邪気な声に少し笑みを浮かべると、落ち着いた声で、
「私はブラックが好き」と返した。
すると陽⽃は、少し驚いたように⼤きく⽬を⾒開き、満⾯の笑顔で⾔った。
「澄華、今⽇初めて笑った!」
その⾔葉に、思わず澄華は⽴ち上がる。
「え……何回も笑ってたよ?名前⾔ったときとか」
陽⽃はその⾔葉にさらに明るく反応し、安⼼したように
胸を撫で下ろす。
「マジ!?そうだったんだ、良かった……!
俺、てっきり嫌われてんのかと思ってたわ……!」
澄華は、⾃分が今まで笑っているつもりだった表情が、
陽⽃には笑顔として認識されていなかったという事実に軽く衝撃を
受けながらも、必死にそれを否定する。
「嫌いとかじゃないから……!」
陽⽃はその⾔葉を聞くと、嬉しそうに微笑み、⼆⼈の間にふわりと
柔らかい空気が流れ始めた。
凛は、⼆⼈の様⼦を交互にチラリと⾒やり、ふっと短くため息をつくようにして、
マグカップに⾓砂糖を2つ⼊れた。
「……俺は2つ⼊れる。」
陽⽃は思わず⼩さく声を漏らす。
「意外と⽢党なんすね……!」
凛はその⾔葉に少し顔を背け、少しだけ眉をひそめながら低く返した。
「だったらなんだ。」
しかし陽⽃は気にする様⼦もなく、満⾯の笑みを浮かべながら
凛の真横に腰を下ろす。
「いえ!俺も同じっす!!」
凛は、陽⽃の無邪気な距離感に少し嫌そうに顔をしかめ、
わずかに体を引いて距離を置く。
だが、その表情の奥には、不快感というよりも、慣れない距離感への
⼾惑いが⾒え隠れしていた。

