澄華と陽⽃は、なんとなく⼆階に上がる気にはなれず、
凛がいるリビングを出て⾏きづらい雰囲気のまま、しばらく突っ⽴っていた。
空気は微妙に重く、時折凛がソファでため息をつく⾳だけが静かに響く。
沈黙に耐えきれなくなったのか、陽⽃が不意に、棒読みでわざとらしい声を出した。
「アー、チョット喉ガ渇いたナー」
その声に、澄華は思わず視線を陽⽃に向ける。
陽⽃は肩をすくめると、キッチンに歩き出した。
澄華も冷蔵庫の中⾝が気になったため、そっと後を追う。
キッチンに到着すると、陽⽃は勢いよく冷蔵庫を開けた。
その瞬間、彼の⽬がみるみる輝き、まるで世界で初めて⾒た宝物を
発⾒したかのように固まった。
「……どうしたの?」
澄華が不思議に思い、冷蔵庫の中を覗き込む。
中⾝は⾄って普通の⼀般家庭の冷蔵庫で、卵、⽜乳、ベーコン、
トマトといった、どこにでもある⾷材が整然と並んでいる。
しかし陽⽃はその普通の光景に、⼼の底から感動したかのように
⽬を輝かせた。
「すっげぇ!!卵もベーコンも……⾒ろよ!⽜乳まである!!」
澄華は軽く⾸を傾げて、⼩さく「うん……?」と返す。
卵も、ベーコンも⽜乳も、普通の⼀般家庭にある冷蔵庫の中⾝と、
何ら変わりないものだったからだ。
陽⽃は全く気にせず、まるで⾃分だけの世界に⼊り込んだかのように、
嬉しそうに凛の⽅に駆け寄った。
「班⻑、⾒てくださいよこれ!!すごいですよ!!
卵に⽜乳……ベーコンにトマトまであります!!」
凛は⼀瞬、眉をひそめて「は?」と⾔いかけたが、次の瞬間、
何かを察したように、短く「……ああ、すげぇな」と呟いた。
陽⽃はもう⽌まらない。
⿐歌交じりに、⽬をキラキラと輝かせながら、冷蔵庫の中をあれこれ
⾒て回る。
「んー、今⽇は何の料理しよっかな〜!」
澄華は、飲み物を取りに来たはずの陽⽃が冷蔵庫の⾷材に夢中になり、
本来の⽬的である飲み物を忘れている様⼦を⾒つめ、⾸をひねったまま
⼩さくため息をついた。

