意地っ張りな私たちが、神様に許された最後の100日間

翌朝、インターホンの音で目が覚めた。
時計を見ると、まだ登校には早い時間。嫌な予感がして窓から下を覗くと、そこには自転車にもたれかかってスマホをいじっている蒼汰がいた。
(本当に……来たんだ。あんなに酷いこと言ったのに)
私は急いでコンシーラーで目の下のクマと顔色の悪さを隠し、階段を駆け下りた。

「……何しに来たの。迷惑だって言ったじゃん」

玄関を開けるなり、私はトゲのある声を出す。でも、蒼汰は怒るどころか、じっと私の顔を見つめてきた。

「顔、白いぞ。ちゃんと食ってるか?」

「……余計なお世話。あんたに関係ないでしょ」

私は彼を無視して歩き出す。蒼汰は黙って隣についてくる。
坂道の途中で、急に心臓が激しく脈打った。視界が白くチカチカする。
(……まずい。今だけは、今だけは……!)

「陽茉梨、無理すんな。カバン持っ――」

「触らないでって言ってるでしょ!」

叫んだ瞬間、肺の奥が焼けるように熱くなった。
激しい咳き込みが止まらなくなり、私はその場に膝をついた。

「おい、陽茉梨! 大丈夫か!?」

蒼汰が慌てて駆け寄り、私の肩を抱く。

「離して……っ」と言おうとしたけれど、声が出ない。
必死に口元を抑えた手の隙間から、赤い雫が地面にこぼれ落ちた。

「……これ、血……? なんで……」

蒼汰の声が震えている。
私は意識が遠のく中で、必死にカバンを引き寄せようとした。
でも、力が入らない指先からカバンが滑り落ち、中身がアスファルトにぶちまけられる。
バラバラと散らばった教科書や筆箱。
その中に混じって、昨日受け取ったばかりの『余命宣告』と書かれた封筒と、大量の白い薬の袋が、朝の光にさらされた。

「……陽茉梨。これ、何だよ」

蒼汰が震える手で、その封筒を拾い上げる。
私は彼の顔を見ることができず、ただ地面に滴る赤を眺めていた。
隠し通したかった。
最後まで、ただの「意地っ張りで嫌な女」として、彼の記憶から消えたかったのに。

「……返して。……蒼汰、返してよ……!」

泣き叫ぼうとしたけれど、私の視界はそこで真っ暗に染まった。
最後に聞こえたのは、私の名前を呼ぶ蒼汰の、泣きそうな叫び声だった。