意地っ張りな私たちが、神様に許された最後の100日間

翌日の放課後。私は昨日の自分の言葉に自己嫌悪しながらも、一人で校門を出た。
これで蒼太も諦めてくれたはず。胸の奥に冷たい風が吹くような感覚を無視して、駅へと続く坂道を下る。

「……陽茉梨」

聞き慣れた低い声。心臓が跳ねた。
振り返ると、自転車を押した蒼太が少し息を切らして立っていた。

「……なんで。大嫌いって言ったでしょ」

「聞いたよ。でも、お前が俺を嫌いでも、俺がお前と一緒に帰りたいのは変わんねーし」

蒼太はいつものように、屈託のない笑顔を向けてくる。
どうして。どうしてこの人は、こんなに優しいの。

「勝手にすれば。……ついてこないでよ」

歩く速度を上げる。でも、蒼太の長い足は簡単に追いついてきて、隣を離れない。
沈黙が流れる中、ふわりと甘い香りがした。蒼太がコンビニの袋から、私の一番好きなイチゴ味のパックジュースを取り出す。

「ほら、これ。お前の『大嫌い』をなだめる用」

差し出されたストロー付きの紙パック。
受け取りたい。笑って「ありがとう」って言いたい。
でも、その優しさに甘えたら、私はもっと生きたくなってしまう。死ぬのが怖くなってしまう。

「……いらない。子供じゃないんだから」
私はその手を冷たく振り払った。
その拍子に、蒼太の手からこぼれたジュースがアスファルトに落ちて、嫌な音を立てる。

「あ……」

蒼太の指先が少し震えた。
ごめん。心の中で叫ぶ。でも、言葉として出てきたのは、さらに尖った棘だった。

「ねえ、蒼太。あんたのそういう『良い人ぶったところ』が、本当にイライラするの」

冷たい言葉を吐いた瞬間、急に視界がぐにゃりと歪んだ。
心臓が激しく波打ち、足元から力が抜けていく。

「陽茉梨……?」

蒼太が異変に気づいて駆け寄ろうとする。
私は必死に、震える手でガードレールの支柱を掴んだ。

(今だけは、倒れちゃだめ。バレちゃだめ……!)

「近寄らないで!」

鋭い声を出して彼を止める。私は大きく息を吸い込み、冷や汗を拭って歩き出した。
蒼太の視線が背中に刺さる。彼は追いかけてこなかった。

(これでいいんだ。蒼太……、私を嫌いになって。お願いだから)
家までの帰り道、私は一度も後ろを振り返らなかった。
目からこぼれそうになる雫が、昨日見た夕陽よりもずっと熱かった。