「……ねえ、蒼汰。これ、似合うかな?」
週末のショッピングモール。陽茉梨は、雑貨屋で見つけたシルバーのピンキーリングを自分の右手の小指にはめて、はしゃいだ声を上げた。
昨日の夜、一人で泣いていたなんて微塵も感じさせない、ひまわりみたいな笑顔。
「……おう。いいんじゃねーの。お前、指細いからな」
俺はわざとぶっきらぼうに答えて、彼女の細い手首をそっと引き寄せた。
昨日の「感覚が鈍い」という異変。陽茉梨は、それを俺に悟らせないように、今日はわざと左手ばかりを使ってカバンを持ったり、髪を整えたりしている。
(……健気すぎて、胸が痛いよ)
俺は店員に声をかけて、そのリングをペアで買った。
「……はい、これ。お揃い」
「えっ……、いいの? 蒼汰、こういうの苦手じゃなかったっけ」
「……うるせー。お前がどっか行かないように、目印だよ」
俺は、陽茉梨の右手の小指に、銀色の輪を通した。
冷たい金属の感触。彼女は一瞬、ビクリと肩を震わせたけれど、すぐに嬉しそうにそのリングを見つめた。
「……ありがと。私、これ一生外さない」
「一生なんて重いよ。……おばあちゃんになったら、指太くなって入らなくなるだろ」
「そしたら、蒼汰が新しいの買ってよ」
「……わかったよ。約束な」
指切りをするみたいに、小指を絡める。
でも、その時。
陽茉梨の右手の小指が、俺の小指を跳ね返してこない。
力が入っていない。ただ、俺の指に添えられているだけの、静かな指先。
(……ああ。……やっぱり、進んでるんだな)
俺は、気づかないふりをして、彼女の手を包み込んだ。
そのまま、少しだけ背伸びをして、映画館やカフェを回った。
普通の高校生みたいに。
「次、何食べたい?」「あの映画、面白そうだったね」
夕暮れ時、屋上庭園のベンチで、陽茉梨がポツリと言った。
「……ねえ、蒼汰。もし私が、ずっとこのままだったらいいのにね」
「……このままって?」
「普通の高校生で、普通の彼女で。……明日も、明後日も、普通に蒼汰の隣で笑ってられる、このまま」
陽茉梨の瞳に、オレンジ色の夕陽が反射して、一筋の涙がこぼれそうになる。
俺は、彼女を壊さないように、でも力一杯、その肩を抱き寄せた。
「……いられるよ。俺がいるんだから」
「……うん。……信じてるよ、蒼汰」
陽茉梨は俺の胸に顔を埋めた。
彼女の指に光る、お揃いのピンキーリング。
それは、いつか動かなくなるその指に、俺が繋ぎ止めたかった「未来」の欠片だった。
帰り道。
自転車の後ろに乗せた陽茉梨の体温が、いつもより少しだけ低く感じた。
俺は、ペダルを漕ぐ足に力を込める。
砂時計が止まらないなら、俺の熱で、その時間を焼き尽くしてやりたかった。
週末のショッピングモール。陽茉梨は、雑貨屋で見つけたシルバーのピンキーリングを自分の右手の小指にはめて、はしゃいだ声を上げた。
昨日の夜、一人で泣いていたなんて微塵も感じさせない、ひまわりみたいな笑顔。
「……おう。いいんじゃねーの。お前、指細いからな」
俺はわざとぶっきらぼうに答えて、彼女の細い手首をそっと引き寄せた。
昨日の「感覚が鈍い」という異変。陽茉梨は、それを俺に悟らせないように、今日はわざと左手ばかりを使ってカバンを持ったり、髪を整えたりしている。
(……健気すぎて、胸が痛いよ)
俺は店員に声をかけて、そのリングをペアで買った。
「……はい、これ。お揃い」
「えっ……、いいの? 蒼汰、こういうの苦手じゃなかったっけ」
「……うるせー。お前がどっか行かないように、目印だよ」
俺は、陽茉梨の右手の小指に、銀色の輪を通した。
冷たい金属の感触。彼女は一瞬、ビクリと肩を震わせたけれど、すぐに嬉しそうにそのリングを見つめた。
「……ありがと。私、これ一生外さない」
「一生なんて重いよ。……おばあちゃんになったら、指太くなって入らなくなるだろ」
「そしたら、蒼汰が新しいの買ってよ」
「……わかったよ。約束な」
指切りをするみたいに、小指を絡める。
でも、その時。
陽茉梨の右手の小指が、俺の小指を跳ね返してこない。
力が入っていない。ただ、俺の指に添えられているだけの、静かな指先。
(……ああ。……やっぱり、進んでるんだな)
俺は、気づかないふりをして、彼女の手を包み込んだ。
そのまま、少しだけ背伸びをして、映画館やカフェを回った。
普通の高校生みたいに。
「次、何食べたい?」「あの映画、面白そうだったね」
夕暮れ時、屋上庭園のベンチで、陽茉梨がポツリと言った。
「……ねえ、蒼汰。もし私が、ずっとこのままだったらいいのにね」
「……このままって?」
「普通の高校生で、普通の彼女で。……明日も、明後日も、普通に蒼汰の隣で笑ってられる、このまま」
陽茉梨の瞳に、オレンジ色の夕陽が反射して、一筋の涙がこぼれそうになる。
俺は、彼女を壊さないように、でも力一杯、その肩を抱き寄せた。
「……いられるよ。俺がいるんだから」
「……うん。……信じてるよ、蒼汰」
陽茉梨は俺の胸に顔を埋めた。
彼女の指に光る、お揃いのピンキーリング。
それは、いつか動かなくなるその指に、俺が繋ぎ止めたかった「未来」の欠片だった。
帰り道。
自転車の後ろに乗せた陽茉梨の体温が、いつもより少しだけ低く感じた。
俺は、ペダルを漕ぐ足に力を込める。
砂時計が止まらないなら、俺の熱で、その時間を焼き尽くしてやりたかった。


