意地っ張りな私たちが、神様に許された最後の100日間

部活帰りの自転車を押しながら、私たちは街灯がぽつぽつと灯り始めた遊歩道を歩いていた。
昼間の冷やかしや、マネージャーへの小さな嫉妬。そんなものが全部、夜の空気に溶けていく。
「……ねえ、蒼汰。今日の月、すごく綺麗だよ」
「……ああ。お前、そういうの好きだよな」
立ち止まって空を見上げる私の隣で、蒼汰も足を止めた。
誰もいない、静かな公園の入り口。
部活で疲れているはずなのに、彼は嫌な顔一つせず、私の歩幅に合わせてずっと歩いてくれた。
「……あのさ、陽茉梨」
「……なに?」
振り返った瞬間、視界がいきなり暗くなった。
ふわりと、彼の制服の匂いと、運動した後の熱い体温が私を包み込む。
「……えっ、蒼汰……?」
気づいたときには、私は彼の腕の中にいた。
大きな手が私の背中に回され、ぐいっと引き寄せられる。
私の顔は彼の胸板に埋もれて、トク、トク、と、走った後みたいに速い彼の鼓動が耳元で鳴り響いた。
「……ちょっとだけ、このまま。……チャージさせて」
低くて、少し震えた声。
いつも強気な蒼汰が、子供みたいに私にしがみついている。
そのギャップに、私の心臓は壊れそうなほど跳ねた。
「……苦しくない? 蒼汰、疲れちゃうよ」
「……逆。……こうしてないと、俺の方がもたない。……お前が可愛すぎて、ずっと我慢してたんだから」
彼の腕に、ギュッと力がこもる。
私の細い体が、彼の大きな体にすっぽりと収まってしまう。
折れちゃいそうなほど儚い私を、彼は「絶対に離さない」と誓うみたいに、必死に抱きしめてくれた。
(……温かい。……生きてるんだ、私。蒼汰の腕の中で)
私は、震える手をそっと彼の腰に回した。
ゴツゴツとした背中の感触。
意地っ張りだった頃の私なら、きっと逃げ出していた。
でも今は、このまま溶けてしまいたいと思うくらい、彼の温度が愛おしかった。
「……蒼汰。大好きだよ」
胸元で小さく呟くと、彼は私の髪に顔を埋めて、深く息を吐いた。
「……知ってる。……俺の方が、百倍好きだけど」
五秒、十秒。
時間は止まっているみたいに静かで、でも私たちの間には、どんな言葉よりも熱い想いが通い合っていた。
離れた後の蒼汰の顔は、街灯の光の下で、見たこともないくらい真っ赤で。
それが可笑しくて、愛しくて、私は彼の手をぎゅっと握りしめた。
「……帰ろ。……明日も、こうしてくれる?」
「……おう。……毎日してやるよ、バカ」
繋いだ手から伝わる、消えない微熱。
病気という「影」がいつか私たちを引き裂くとしても、今、この瞬間だけは、私たちは世界で一番幸せな「ふたり」だった。