意地っ張りな私たちが、神様に許された最後の100日間

「……あ、陽茉梨。まだいたのか」
部活の練習が終わり、夕闇が迫るグラウンド。汗を拭きながら駆け寄ってきた蒼汰が、ベンチに座る私を見つけて目を見開いた。
「うん。……蒼汰の練習、最後まで見たかったから」
私は膝の上に置いたスポーツバッグをぎゅっと抱え直す。
さっきまでグラウンドを走り回っていた蒼汰は、クラスにいる時とは違う、凛々しくて少し怖いぐらいにかっこいい「男の子」の顔をしていた。
「……バカ。体が冷えるだろ。……ほら、これ着てろ」
蒼汰が自分のジャージを脱いで、私の肩にバサリとかけてくれた。
運動した後の熱気と、彼の匂いが一気に私を包み込む。ドキドキして、ジャージの袖の中に指先を隠した。
「……ありがと。蒼汰、すっごくかっこよかったよ」
「っ……、……急に言うなよ。……調子狂うだろ」
蒼汰が照れくさそうに首の裏を掻く。
その時、部室から出てきたサッカー部の部員たちが、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「おーい蒼汰! 彼女さん待たせて贅沢だなー!」
「早く帰ってやれよ、ヒマワリちゃんが枯れちゃうぞ!」
「うっせー! さっさと帰れ!」
蒼汰が怒鳴り返すと、部員たちは笑いながら校門の方へ消えていった。
静かになったグラウンド。
私たちは、遠くで光る街灯を眺めながら、並んで座った。
「……ねえ、蒼汰。マネージャーさん、可愛かったね」
思わず口から出た言葉。
練習中、蒼汰にタオルを渡していた一年生の女の子の姿が、ずっと胸にトゲみたいに刺さっていた。
「……は? 誰のことだよ。見てねーし」
「嘘だ。……笑い合ってたじゃん」
私が俯くと、蒼汰が大きな手で私の頭をぐりぐりと撫でた。
少し乱暴だけど、愛しさが伝わってくる手のひら。
「……あのな、陽茉梨。俺がゴール決めた時、真っ先に見たのはどっちだと思ってんだよ」
「……え?」
「ベンチに座ってる、お前だよ。……お前に見せたくて必死に走ってんだ。……他の女なんて、視界に入ってねーから」
直球すぎる言葉に、私の嫉妬は一瞬で溶けて、代わりに甘い熱が全身に回る。
「……ずるい。……そんなこと言われたら、何も言えなくなる」
「……言わせねーよ。……ほら、帰るぞ。お前の家まで、自転車押してってやる」
蒼汰が立ち上がり、私に手を差し出す。
私はその手をしっかりと握り返した。
部活終わりの、少し汗ばんだ、力強い手のひら。
(……この人を、ずっと見ていたい)
たとえ私の足がいつか動かなくなっても、この人がグラウンドを駆ける姿を、一番近くで応援していたい。
そんな、切実な願いを胸に秘めて。
「……蒼汰。明日も、明後日も、ずっと応援させてね」
「……当たり前だろ。俺の特等席、誰にも譲んねーよ」
夕暮れの校舎に、二人の笑い声が静かに溶けていった。