放課後の旧校舎、使われていない文芸部の部室。
外はバケツをひっくり返したような土砂降りで、私たちは雨が弱まるのを待っていた。
「……最悪。ずぶ濡れになっちゃった」
私は自分の濡れたブラウスの袖を絞りながら、窓の外を見つめる。
少しだけ体が冷えて、指先に微かな痺れを感じるけれど、今は蒼汰に心配をかけたくなくて、あえて明るく振る舞った。
「ほら、これ使えよ」
蒼汰が自分の指定ジャージを私の肩にバサリとかけてくれた。
彼の体温が残る厚手の生地。包まれると、なんだか彼に抱きしめられているみたいで、急に顔が熱くなる。
「……蒼汰は? 風邪引いちゃうよ」
「俺は丈夫だからいいんだよ。お前、顔白いぞ。……本当は、今日もしんどかったんだろ」
蒼汰が私の隣に座り、じっと私の目を見つめてくる。
ごまかそうとして、私は窓に流れる雨粒を指でなぞった。
「……ちょっとだけ、ね。でも、蒼汰と一緒にいたいから、頑張っちゃった」
「……バカ。頑張りすぎなんだよ」
蒼汰の手が、私の後頭部に回る。
そのまま、ぐいっと引き寄せられて、私の額が彼の肩にこつんと当たった。
雨の音だけが響く部室。
カチコチと刻む時計の音が、私たちの鼓動と重なって聞こえる。
「陽茉梨。……俺、もう我慢できねーわ」
「……え?」
「お前がいつ『大嫌い』って嘘つくか、いつどっか行っちゃうか、毎日怖くてたまんねーんだよ」
蒼汰の声が、耳元で低く響く。
彼は私の肩を掴んで、自分の方を向かせた。
その瞳は、いつもの優しさだけじゃない、もっと強くて、切実な光を宿している。
「俺さ……、お前が病気だから側にいたいんじゃねえよ。……陽茉梨だから、側にいたいんだ」
「……蒼汰……」
「好きだよ。……幼馴染としてじゃなくて、一人の女として、世界で一番。……俺の、彼女になってくれない?」
直球すぎる、嘘偽りのない言葉。
私の胸の奥で、ずっと凍えていた「意地」が、彼の熱で一気に溶かされていく。
(……生きたい)
彼と一緒に、この雨が止んだ後の空を見たい。
たとえ明日、私の指が動かなくなっても、この言葉だけは伝えなきゃいけない。
「……いいの? 私、いつまでこうしていられるか、分かんないよ?」
「いいよ。……一分でも一秒でも、俺がお前の隣にいる理由がほしいんだ」
私は、彼のシャツをぎゅっと握りしめた。
「……私も。……私も、大好きだよ、蒼汰」
雨の日の、薄暗い部室。
私たちは、ついに「幼馴染」という安全な場所を飛び出した。
外はバケツをひっくり返したような土砂降りで、私たちは雨が弱まるのを待っていた。
「……最悪。ずぶ濡れになっちゃった」
私は自分の濡れたブラウスの袖を絞りながら、窓の外を見つめる。
少しだけ体が冷えて、指先に微かな痺れを感じるけれど、今は蒼汰に心配をかけたくなくて、あえて明るく振る舞った。
「ほら、これ使えよ」
蒼汰が自分の指定ジャージを私の肩にバサリとかけてくれた。
彼の体温が残る厚手の生地。包まれると、なんだか彼に抱きしめられているみたいで、急に顔が熱くなる。
「……蒼汰は? 風邪引いちゃうよ」
「俺は丈夫だからいいんだよ。お前、顔白いぞ。……本当は、今日もしんどかったんだろ」
蒼汰が私の隣に座り、じっと私の目を見つめてくる。
ごまかそうとして、私は窓に流れる雨粒を指でなぞった。
「……ちょっとだけ、ね。でも、蒼汰と一緒にいたいから、頑張っちゃった」
「……バカ。頑張りすぎなんだよ」
蒼汰の手が、私の後頭部に回る。
そのまま、ぐいっと引き寄せられて、私の額が彼の肩にこつんと当たった。
雨の音だけが響く部室。
カチコチと刻む時計の音が、私たちの鼓動と重なって聞こえる。
「陽茉梨。……俺、もう我慢できねーわ」
「……え?」
「お前がいつ『大嫌い』って嘘つくか、いつどっか行っちゃうか、毎日怖くてたまんねーんだよ」
蒼汰の声が、耳元で低く響く。
彼は私の肩を掴んで、自分の方を向かせた。
その瞳は、いつもの優しさだけじゃない、もっと強くて、切実な光を宿している。
「俺さ……、お前が病気だから側にいたいんじゃねえよ。……陽茉梨だから、側にいたいんだ」
「……蒼汰……」
「好きだよ。……幼馴染としてじゃなくて、一人の女として、世界で一番。……俺の、彼女になってくれない?」
直球すぎる、嘘偽りのない言葉。
私の胸の奥で、ずっと凍えていた「意地」が、彼の熱で一気に溶かされていく。
(……生きたい)
彼と一緒に、この雨が止んだ後の空を見たい。
たとえ明日、私の指が動かなくなっても、この言葉だけは伝えなきゃいけない。
「……いいの? 私、いつまでこうしていられるか、分かんないよ?」
「いいよ。……一分でも一秒でも、俺がお前の隣にいる理由がほしいんだ」
私は、彼のシャツをぎゅっと握りしめた。
「……私も。……私も、大好きだよ、蒼汰」
雨の日の、薄暗い部室。
私たちは、ついに「幼馴染」という安全な場所を飛び出した。


