「……ねえ、蒼汰。近すぎだってば」
夕暮れ時の静かな部屋。お見舞いに来た蒼汰は、私のベッドの端に腰掛けて、数学のノートを広げていた。
いつもよりぐっと近い距離。制服から香る、清潔な石鹸の匂いと外の空気の香りが混ざり合って、私の心臓をうるさくさせる。
「……別に。お前、ここ分からないって言っただろ? 教えてやってんじゃん」
そう言って、蒼汰は私の手元に身を乗り出した。
彼の肩が私の肩に軽く触れる。そのたった数センチの接触が、電気のように全身を駆け抜けた。
「……あ、ありがと。でも、自分でできるから」
「嘘つけ。ペン止まってんぞ」
蒼汰がふっと笑って、私の手からシャーペンをひょいと取り上げた。
指先が一瞬重なる。熱い。
彼はそのまま、私のノートの余白にスラスラと解き方を書き込んでいく。横顔をじっと見つめてしまう。通った鼻筋、少し長い睫毛、そして……真剣な目。
(……かっこいいな。ずるいよ、こんなの)
私がぼーっとしていると、蒼汰が不意にこちらを振り向いた。
視線が、至近距離でぶつかる。
「……何、見とれてんの」
「っ! 見てないし! ……あ、暑いから、顔が赤いだけ!」
慌てて顔を背けようとした私の両頬を、蒼汰の手がそっと包み込んだ。
大きくて、少し節くれだった、男の子の手。
「……本当だ。熱い。熱、上がったか?」
蒼汰の顔がさらに近づく。
彼の瞳の中に、真っ赤になって慌てている情けない私の顔が映っている。
逃げ場なんてどこにもない。心臓の音が、彼にまで聞こえてしまいそうなくらい大きく跳ねた。
「……大丈夫。……大丈夫だから、離して」
「やだ。……お前、すぐ無理するから。こうしてないと、どっか行っちゃいそうで怖いんだよ」
蒼汰の声が、いつもより少し低くなって、耳の奥をくすぐる。
彼はそのまま、私をおでことおでこがくっつきそうな距離まで引き寄せた。
「……陽茉梨」
「な、なに……?」
「……俺のこと、ただの幼馴染だと思ってんの、お前だけだぞ」
そう言って、彼は私の頭を優しくポンポンと叩いた。
そのまま、私の耳元で小さく「……バカ」と囁く。
反則だ。こんなの、病気のせいじゃなくて、恋の熱で倒れちゃう。
夕焼けに染まった部屋の中で、私たちの影が一つに重なりそうになる。
付き合う一歩手前の、甘くて、くすぐったくて、壊れそうなほど幸せな時間。
「……明日も、来てくれる?」
勇気を出して服の裾を掴むと、蒼汰は少し驚いたあと、今までで一番優しい顔で笑った。
「当たり前だろ。……お前が俺を嫌いになっても、俺は来るから」
夕暮れ時の静かな部屋。お見舞いに来た蒼汰は、私のベッドの端に腰掛けて、数学のノートを広げていた。
いつもよりぐっと近い距離。制服から香る、清潔な石鹸の匂いと外の空気の香りが混ざり合って、私の心臓をうるさくさせる。
「……別に。お前、ここ分からないって言っただろ? 教えてやってんじゃん」
そう言って、蒼汰は私の手元に身を乗り出した。
彼の肩が私の肩に軽く触れる。そのたった数センチの接触が、電気のように全身を駆け抜けた。
「……あ、ありがと。でも、自分でできるから」
「嘘つけ。ペン止まってんぞ」
蒼汰がふっと笑って、私の手からシャーペンをひょいと取り上げた。
指先が一瞬重なる。熱い。
彼はそのまま、私のノートの余白にスラスラと解き方を書き込んでいく。横顔をじっと見つめてしまう。通った鼻筋、少し長い睫毛、そして……真剣な目。
(……かっこいいな。ずるいよ、こんなの)
私がぼーっとしていると、蒼汰が不意にこちらを振り向いた。
視線が、至近距離でぶつかる。
「……何、見とれてんの」
「っ! 見てないし! ……あ、暑いから、顔が赤いだけ!」
慌てて顔を背けようとした私の両頬を、蒼汰の手がそっと包み込んだ。
大きくて、少し節くれだった、男の子の手。
「……本当だ。熱い。熱、上がったか?」
蒼汰の顔がさらに近づく。
彼の瞳の中に、真っ赤になって慌てている情けない私の顔が映っている。
逃げ場なんてどこにもない。心臓の音が、彼にまで聞こえてしまいそうなくらい大きく跳ねた。
「……大丈夫。……大丈夫だから、離して」
「やだ。……お前、すぐ無理するから。こうしてないと、どっか行っちゃいそうで怖いんだよ」
蒼汰の声が、いつもより少し低くなって、耳の奥をくすぐる。
彼はそのまま、私をおでことおでこがくっつきそうな距離まで引き寄せた。
「……陽茉梨」
「な、なに……?」
「……俺のこと、ただの幼馴染だと思ってんの、お前だけだぞ」
そう言って、彼は私の頭を優しくポンポンと叩いた。
そのまま、私の耳元で小さく「……バカ」と囁く。
反則だ。こんなの、病気のせいじゃなくて、恋の熱で倒れちゃう。
夕焼けに染まった部屋の中で、私たちの影が一つに重なりそうになる。
付き合う一歩手前の、甘くて、くすぐったくて、壊れそうなほど幸せな時間。
「……明日も、来てくれる?」
勇気を出して服の裾を掴むと、蒼汰は少し驚いたあと、今までで一番優しい顔で笑った。
「当たり前だろ。……お前が俺を嫌いになっても、俺は来るから」


