病院をこっそり抜け出した私たちは、朝一番の電車に飛び乗った。
病衣の上に無理やり羽織ったカーディガン。蒼汰の自転車の後ろに乗って駅まで駆けた時の、冷たい風の匂いがまだ髪に残っている。
「……ねえ、蒼汰。私、こんな格好で大丈夫かな」
「……バカ。世界で一番可愛いよ、今の陽茉梨が」
最寄り駅の駅ビル。まだ開店したばかりのゲームセンターに、私たちは吸い込まれるように入った。
お目当ては、隅っこに置かれた最新のプリ機。
「……撮りたかったんだ。今の、私たちを」
狭いカーテンの中に、二人分の体温が閉じ込められる。
カウントダウンが始まる。
私は震える右手を左手で隠しながら、精一杯の笑顔を作った。
蒼汰は少し照れくさそうに、でも私の肩をしっかりと抱き寄せて。
『3、2、1……!』
フラッシュが焚かれる。
画面に映し出された私たちは、まるで病気なんて嘘みたいに、どこにでもいる普通の恋人同士に見えた。
落書きタイムで、蒼汰が慣れない手つきで書いた言葉。
【 ずっと、一緒。 】
その文字を見た瞬間、視界がじわりと滲んだ。
ずっと一緒。……叶わないと分かっているからこそ、その言葉は呪文のように私の胸を締め付ける。
「……行こう、陽茉梨。ひまわり畑に」
駅からバスに揺られて三十分。
たどり着いたそこには、当然、夏のような満開のひまわりなんてなかった。
茶色く枯れ果てた茎が、冬を待つように静かに立っているだけ。
「……そっか。やっぱり、ないよね」
私は寂しく笑って、枯れた花に触れようとした。
その時だった。
「……陽茉梨。こっち見て」
蒼汰の声に振り返ると、彼は自分のカバンから、黄色い紙束を取り出した。
それは、彼が昨日の夜、寝ずに折ったのであろう、何十本もの「折り紙のひまわり」だった。
「ひまわりがないなら、俺が作るって言っただろ。……ほら、ここなら枯れない」
彼は枯れ果てた花壇の隙間に、一つ、また一つと、手作りのひまわりを挿していく。
茶色の世界に、鮮やかな黄色が灯っていく。
私のために、彼は、奇跡を運んできてくれたんだ。
「……蒼汰。……っ、……蒼汰!」
私はたまらず、彼の胸に飛び込んだ。
もう、意地なんて張れない。
隠していた右手も、震える体も、全部彼に預けてしまいたかった。
「……好きだよ。……大好きだよ、蒼汰……!」
泣きじゃくる私の顔を、蒼汰が優しく包み込む。
そして、彼は自分の大きな左手を、私の不自由な右手にそっと重ねた。
「……陽茉梨。俺の手、熱いだろ?」
「……うん」
「この熱が、お前に移るまで。……ずっと、離さないから」
蒼汰が指を絡ませてくる。
指と指が、迷いながら、吸い付くように重なり合う。
「恋人繋ぎ」。
初めて触れた彼の掌は、想像していたよりもずっとずっと熱くて、私の死にかけた神経を、火傷しそうなほど強く叩いた。
枯れたひまわり畑の真ん中で、私たちは、たった一秒の永遠を分け合った。
繋いだ手から伝わってくるのは、生きたいという私の叫びと、離さないという彼の誓い。
この温もりを、私は死んでも忘れない。
……たとえ、この手がいつか冷たくなってしまう日が来たとしても。
病衣の上に無理やり羽織ったカーディガン。蒼汰の自転車の後ろに乗って駅まで駆けた時の、冷たい風の匂いがまだ髪に残っている。
「……ねえ、蒼汰。私、こんな格好で大丈夫かな」
「……バカ。世界で一番可愛いよ、今の陽茉梨が」
最寄り駅の駅ビル。まだ開店したばかりのゲームセンターに、私たちは吸い込まれるように入った。
お目当ては、隅っこに置かれた最新のプリ機。
「……撮りたかったんだ。今の、私たちを」
狭いカーテンの中に、二人分の体温が閉じ込められる。
カウントダウンが始まる。
私は震える右手を左手で隠しながら、精一杯の笑顔を作った。
蒼汰は少し照れくさそうに、でも私の肩をしっかりと抱き寄せて。
『3、2、1……!』
フラッシュが焚かれる。
画面に映し出された私たちは、まるで病気なんて嘘みたいに、どこにでもいる普通の恋人同士に見えた。
落書きタイムで、蒼汰が慣れない手つきで書いた言葉。
【 ずっと、一緒。 】
その文字を見た瞬間、視界がじわりと滲んだ。
ずっと一緒。……叶わないと分かっているからこそ、その言葉は呪文のように私の胸を締め付ける。
「……行こう、陽茉梨。ひまわり畑に」
駅からバスに揺られて三十分。
たどり着いたそこには、当然、夏のような満開のひまわりなんてなかった。
茶色く枯れ果てた茎が、冬を待つように静かに立っているだけ。
「……そっか。やっぱり、ないよね」
私は寂しく笑って、枯れた花に触れようとした。
その時だった。
「……陽茉梨。こっち見て」
蒼汰の声に振り返ると、彼は自分のカバンから、黄色い紙束を取り出した。
それは、彼が昨日の夜、寝ずに折ったのであろう、何十本もの「折り紙のひまわり」だった。
「ひまわりがないなら、俺が作るって言っただろ。……ほら、ここなら枯れない」
彼は枯れ果てた花壇の隙間に、一つ、また一つと、手作りのひまわりを挿していく。
茶色の世界に、鮮やかな黄色が灯っていく。
私のために、彼は、奇跡を運んできてくれたんだ。
「……蒼汰。……っ、……蒼汰!」
私はたまらず、彼の胸に飛び込んだ。
もう、意地なんて張れない。
隠していた右手も、震える体も、全部彼に預けてしまいたかった。
「……好きだよ。……大好きだよ、蒼汰……!」
泣きじゃくる私の顔を、蒼汰が優しく包み込む。
そして、彼は自分の大きな左手を、私の不自由な右手にそっと重ねた。
「……陽茉梨。俺の手、熱いだろ?」
「……うん」
「この熱が、お前に移るまで。……ずっと、離さないから」
蒼汰が指を絡ませてくる。
指と指が、迷いながら、吸い付くように重なり合う。
「恋人繋ぎ」。
初めて触れた彼の掌は、想像していたよりもずっとずっと熱くて、私の死にかけた神経を、火傷しそうなほど強く叩いた。
枯れたひまわり畑の真ん中で、私たちは、たった一秒の永遠を分け合った。
繋いだ手から伝わってくるのは、生きたいという私の叫びと、離さないという彼の誓い。
この温もりを、私は死んでも忘れない。
……たとえ、この手がいつか冷たくなってしまう日が来たとしても。


