勝手に応募されたけど、センターは私がもらいます

その後も参加者には厳しい評価がつき、会場の空気はさらに張りつめていった。

「音程が不安定だ」
「ダンスの基礎ができていない」
「覚悟が見えない」

審査員たちは一切遠慮せず、はっきりと評価を伝えていく。

参加者たちは次々と厳しい言葉を受け、静かにステージを降りていった。

客席の緊張はどんどん高まっていく。

そんな中、スタッフが次の名前を読み上げた。

「次の参加者――佐伯奏」

客席の後ろから、一人の男子が立ち上がる。

柔らかい金色に近い髪。
少し小柄で、整った顔立ち。

ぱっと見ただけで「可愛い」と思われるタイプだった。

周りの参加者が小さくささやく。

「かわいい…」
「私達より可愛いんですけど。」

奏はにこっと笑いながらステージへ向かった。

(ふーん…思ったよりレベル低いかも)

心の中では、まったく違うことを考えていた。

(この程度なら、余裕で目立てそう)

表情には出さず、あくまで可愛らしい笑顔のままステージに立つ。

スポットライトが当たる。

「始めてください」

明るいポップな曲が流れ始めた。

奏は軽やかにステップを踏み、笑顔で歌い始める。

声は明るく、少し甘い。

曲の雰囲気にぴったりだった。

途中でウインクをしたり、観客に手を振ったりする。

可愛い仕草が自然に出てくる。

会場の空気が少し和らいだ。

(あ、これ完全にファンつくやつだ)

客席の参加者たちも思わず見ていた。

曲の最後。

奏はくるっと回り、笑顔でポーズを決めた。

客席から自然に拍手が起こる。

審査員席でも空気が少し変わっていた。

最初にマイクを取ったのは水城奏だった。

「声がとても良いですね」

少し驚いたような表情をしている。

「高音が軽くてきれいに出ています」

「可愛い系の曲との相性もかなり良い」

水城は続ける。

「表現の仕方も上手いですね」

「歌いながら表情を変える余裕もあります」

次に真田玲司が口を開く。

「ダンスも良い」

腕を組みながら言う。

「体の使い方が柔らかい」

「リズムの取り方も自然だ」

真田は少し笑った。

「見ていて楽しいダンスだな」

続いて天城蓮。

クールな表情のまま言った。

「キャラがはっきりしてる」

会場が少しざわつく。

「自分がどう見られるか分かってる」

天城は奏を見て言う。

「ステージの見せ方がうまい」

「アイドルとしてのセンスは高いと思う」

次に神崎蒼馬が口を開いた。

「表情の作り方がいい」

短く言う。

「観客をちゃんと意識してる」

少し頷いた。

「グループに入ったら、確実に人気が出るタイプだ」

最後に、社長の神宮寺龍弥がマイクを取った。

会場は静まり返る。

「佐伯奏」

神宮寺はゆっくり言った。

「かなり完成度の高いパフォーマンスだった」

奏の目が少しだけ輝く。

「歌、ダンス、表情」

「すべてバランスがいい」

少し間を置く。

「そして何より――」

「人を惹きつける魅力がある」

審査員席でも何人かがうなずいた。

「今回のオーディションでも、上位に入る実力だ」

奏は深く頭を下げた。

「ありがとうございました!」

ステージを降りる。

客席に戻ると、陽斗が小さく言った。

「すごかったね」

姫乃も驚いた表情をしている。

「かわいいだけじゃなかった…」

奏はにこっと笑う。

「えへへ、ありがとうございます」

でも心の中では――

(まあ当然だよね)

(僕が目立たないわけないし)

その笑顔の奥には、誰にも気づかれない腹黒い本心が隠れていた。