勝手に応募されたけど、センターは私がもらいます

ステージの中央に立つ参加者。
曲が終わり、最後のポーズを決めた。

小さな拍手が会場に広がる。

しかし――

審査員席の空気は静まり返っていた。

最初にマイクを取ったのは社長の神宮寺龍弥だった。

「…終わりか?」

低い声が会場に響く。

参加者は緊張したままうなずいた。

神宮寺は少し前に身を乗り出す。

「正直に言う」

「今のパフォーマンスで、アイドルを目指していると言えるのか?」

会場の空気が一気に張りつめる。

「本気でこの世界に来たのなら、その程度の覚悟じゃ通用しない」

参加者は言葉を失った。

次にマイクを持ったのは振付師の真田玲司だった。

腕を組みながら言う。

「ダンスの基礎ができていない」

会場の参加者たちも思わず顔を上げる。

真田は続けた。

「リズムもずれているし、体の使い方も甘い」

「正直、練習量が足りない」

その言葉ははっきりとしていた。

続いてボーカルトレーナーの水城奏。

静かにメモを置く。

「歌について言わせてもらいます」

落ち着いた声だった。

「声は出ています」

少し間を置く。

「でも、歌えているだけです」

参加者の肩がわずかに揺れた。

「感情が伝わらない」

「その歌で、人の心を動かせると思いますか?」

会場は静まり返っている。

次に、トップアイドルグループNEO-STARの天城蓮がマイクを持った。

クールな表情のまま言う。

「アイドルってさ」

「歌って踊るだけじゃない」

天城は参加者を真っ直ぐ見た。

「ステージに立った瞬間に、
全員の視線を奪う存在じゃないといけない」

「でも今のステージには、それがなかった」

最後に、同じくNEO-STARの神崎蒼馬が口を開く。

椅子に座ったまま、鋭い目で参加者を見た。

「厳しいこと言うけど」

「このオーディションは、夢を応援する場所じゃない」

会場の空気がさらに重くなる。

「プロになる人間を見つける場所だ」

神崎は続けた。

「今の実力のままだと――」

「ここで終わる」

参加者は深く頭を下げた。

「ありがとうございました…」

静かにステージを降りていく。

客席の参加者たちは誰も話さない。

神宮寺社長が会場を見渡した。

「勘違いするな」

低い声で言う。

「ここにいる全員がライバルだ」

「甘い気持ちで受かるオーディションじゃない」

真田玲司が腕を組んだまま言った。

「本気のやつがいるなら見せてみろ」

天城蓮も小さく笑う。

「俺たちを驚かせてくれ」

神崎蒼馬が最後に言った。

「本物だけ残ればいい」

会場の緊張は、さらに高まっていった。会場の空気は相変わらず張りつめていた。
これまでの参加者には厳しい評価が続いている。

スタッフの声が響いた。

「次の参加者――朝倉陽斗」

名前を呼ばれ、陽斗は静かに立ち上がった。

スポットライトの中心に立つと、審査員席の五人の視線が一斉に向けられる。

社長の神宮寺龍弥。
振付師の真田玲司。
ボーカルトレーナーの水城奏。
そしてトップアイドルグループNEO-STARの天城蓮と神崎蒼馬。

「始めてください」

ピアノの伴奏が静かに流れ始めた。

陽斗はゆっくりと歌い始める。

透き通るような声が会場に広がった。

客席の参加者たちの表情が変わる。

(…うまい)

歌は安定している。

ただ上手いだけではなく、サビに入ると声に少しだけ感情の強さが乗った。

会場の空気が自然と引き込まれていく。

歌いながら観客の方を見て、少し体を使ってリズムを取る。

大きすぎない動き。

でも、曲の雰囲気に合った自然なパフォーマンスだった。

曲が終わる。

一瞬の静寂。

そして客席から自然に拍手が起こった。

審査員席では、水城奏がゆっくりとメモを置いた。

「まず歌についてですが」

落ち着いた声で話し始める。

「声質がとても良いですね」

「透明感があって、高音もきれいに伸びています」

少し考えてから続けた。

「特にサビの部分、声の響きがとても安定していました」

「呼吸の使い方もしっかりしています」

水城はうなずいた。

「きちんとボイストレーニングをしてきた人の声です」

次にマイクを取ったのは真田玲司。

腕を組んだまま言う。

「ダンスも基礎ができている」

「体の軸がぶれていない」

少し身を乗り出した。

「ステップもきれいだし、リズムの取り方もいい」

真田は続ける。

「ただ派手なダンスじゃないのに、ちゃんと曲の雰囲気を表現できている」

「そこは評価できるな」

続いて天城蓮がマイクを持つ。

クールな表情のまま言った。

「ステージの使い方がうまい」

会場が少しざわつく。

「さっきまでの参加者は、自分のパフォーマンスだけに集中してた」

「でも君は違った」

天城は陽斗を真っ直ぐ見た。

「ちゃんと観客を見てる」

「視線の使い方も自然だった」

少しだけ口元を緩める。

「だから見ていて飽きなかった」

次に神崎蒼馬が口を開いた。

「実力はある」

短く言う。

「歌もダンスもバランスがいい」

神崎は少し考えてから続けた。

「あと、声にクセがない」

「グループに入ったとき、他の声とも合わせやすいタイプだ」

そして少しだけ笑う。

「伸びると思う」

最後に社長の神宮寺龍弥がマイクを取った。

会場は静まり返る。

神宮寺はゆっくりと話し始めた。

「朝倉陽斗」

「非常にバランスのいいパフォーマンスだった」

少し間を置く。

「歌唱力、ダンス、表現力」

「どれも大きな欠点がない」

神宮寺は鋭い目で陽斗を見た。

「そして何より――」

「観客を意識している」

「これは簡単なようで、できない人が多い」

審査員席の何人かもうなずいた。

「今のステージは、しっかりと人を惹きつけていた」

神宮寺は言った。

「このオーディションでも、かなり上位に入るレベルだろう」

陽斗の目が少し驚いたように開く。

「これからどう成長するか、楽しみだ」

陽斗は深く頭を下げた。

「ありがとうございました!」

ステージを降りる。

席に戻ると、隣にいた姫乃が小さく息を吐いた。

「……すごい」

姫乃はまだステージを見つめている。

「声、すごくきれいだった」

「サビのところ、鳥肌立った」

少し考えてから言う。

「あと、ステージに立った瞬間に空気が変わった感じがした」

陽斗は少し照れたように笑う。

「そんなに?」

姫乃は真剣な顔でうなずいた。

「うん」

「審査員が褒めるのも分かる」

そして少しだけ笑った。

「…でも」

「次は私だから」

その目には、負けたくないという気持ちがはっきりと浮かんでいた。