「おっロニ、ついに復帰ですか?」
夕方近くの時刻に私は事務室に入ってきたロニを見ながら言った。この時間に来ることは彼女はいわゆる育休期間を完全に終えたようであった。
「こっちも一段落着いたからね。明日のための準備にきたの。まぁ復帰といってもやはり現場にはもう出ないわ。それでナキ君。この前に話した件なんだけど、やっぱり駄目かな?」
「すみません。前にも伝えたようにお断りいたします。やはり私は勇者という柄ではないです。あの時はああ言いましたがあれは売り言葉に買い言葉というやつでして、そうでも言わないと始まらなかったですし」
「ふぅ分かった。じゃあ僕が称号を持ったままにするからそのままね。なら娘にそれを相続させるつもりだからナキ君はあの子の先生になってちょうだいね。うちの隊は君の路線で行くつもりだから」
「あなたに対してこう言ってはなんですが、これは勇者のやりかたではないですよ。変えるべきです」
「君は理想が高すぎるんだよなぁ。ところであのルッサ君にあのアリィの戦い方を教えているんだっけね?」
「はい。彼もああなりたいと言っていましてね。かなり筋は良いですし気合も入っていますから勇者の称号と共に継承してくれるでしょう」
「あんなにボコボコにされて死の淵を彷徨っていたのによくやるね」
「ああいうタイプは圧倒的なものが好きなのですよ。強ければ強いほどいいしデカければデカいほどいい。なれるかどうか別にして目標にするのはよいことです。あとこれは逃亡中の魔王の娘に対する次の遠征計画の書類です」
「はい、ありがとう。そうかそろそろやるのね。まっいくらなんでもあの戦いよりもすごいことにはならないでしょう」
「そう祈りましょう。それとロニ。今回の報告書の件は感謝いたします。心から安堵した」
「別にあれぐらい良いよ。みんな別に異論は無いしね。本来なら君が異論を唱えるべきだけど、その当の本人からの申し出であるからなぁ……でもこれはアリィのためだよね?」
「いいえ。私のためにですよ。勇者アリィは魔王の娘と契約をしたが途中で意識を取り戻し自らの手で自決したという結末、これでいいのです。私が彼の胸を貫いたのはそうする予定でしたので」
「君が倒したことにならないから恩賞などは特にない、けどそれを選んだのはあの人のためだよね?」
「だから私のためです。実際にそうです。あの人は自殺をしたようなものであり私は補助をしたに過ぎません。それでいいのです」
「まっその報告でみんな損はしていないからね。アリィの名誉はそのままだし遺族も安堵するし魔王の娘の精神乗っ取りの凄まじさも再認識されたりで、君以外はいいことずくめだ。これもまた君の無欲からで」
「ですから私のエゴです。その形にしたかったのも私の欲からに過ぎません。大欲は強欲で無欲にはまるで似ていない。でもそこのところがきっと私が勇者アリィに嫌われたところでしょうね。あの人は私欲に塗れていた私が嫌いだった。憎みそして追放する。当然です。そうでなければならない。だから私は離れてはならなかったのです」
「そう解釈したいのも結局あなたのエゴよね。思うんだけどさ、もしもある時にあなたはこの先かつての自分ではなくなるとアリィに伝えたら彼はどう答えるかな?」
「……」
「僕自身はあの人のことはよく知らないんだけど、君からの話から推定するにたぶんあの時の君のようなことを言ってそして今回のように……」
「ロニ、違いますよ。私はアリィではない」
「そうかな? 何が違うの? 違いとかあるの? ないの?」
「……あっ時間です。じゃあ私はここであがりますね」
「もう帰るの? もう少しいいじゃないの」
「いえ、定時ですしね。もう終わりですしこれ以上何もしないし、そうするのが私です……そうですね、そうです、違いはあの人には物語があって私にはないになりますね、では……」
終わり



