勇者殺しの最強補助魔術師 「お前は追放だ!」と私に言ったロートル勇者が堕ちて魔王となる物語

 
 自分にどれほどの補助魔法を用いれば全盛期の勇者アリィの最強さを勝れるのか?

 私の見立てはすぐにつき補助魔法を発動させ支援ならぬ自援を行うため魔力を高めた。

 用いる量は自身の最大魔力値と一致する。自分の魔力の限界、すなわちそれは人間の限界値点。想像の限界はあの頃の勇者アリィだけだ。

 ここまでやって瞬間的に上にいけるかもしれない。そこにあの人は立っていたしこれから私もそこに行く。私だけにそれができる。いまこの時だけ、できる。

「おっあの時のように自分で自分に補助か。お前みたいなハンチク野郎にお似合いなドーピングだな! いいよこいよかかってきやがれ! いくらやってもお前は100ではなく0なんだから!」

「いいや逆だ。私が100であるのだから0の方なのはあんたのほうだ」

「へっ! そういえばよぉナキ。聞きたいことがあるんだが」

 そんなものはない、と私は迫りつつあるアリィの右の拳に見つめた。いつものやり方だ、と私は見抜く。質問からの攻撃開始。

 さっきと同じ左頬を殴ろうとしている……と見せかけるフェイントをかけた反対側への一撃! だからこそ私は右頬に補助の防御魔法をかけた。

 アリィの狙い通りの粉砕は……起こらない。一点集中であるから完璧に入った怒りの鉄槌は首を微かに動かしただけだった。

 呆気にとられるこの男の顔を横目で見ながら私はその左拳を掴み、握り潰した。これも力の強化の一点集中である。

 これでアリィはダメージを負い! とはならない。骨折に怯まずに右の拳で攻撃してきた。そう、アリィは傷みを感じない。いまのこちらの攻撃も痛がっていない。

 そういう体質なのだ。私はよく知っている。だからこそ、対応できる。

 アリィの再びの一撃を回避した私はその腕を掴みながら流れで投げ技の形に移り地面に思いっきりその身体を叩きつけた。身体が壊れるように、また再び腰を壊すために。

 しかし力の強化を用いてもまだ壊れず、衝撃でアリィはこちらから離れ距離を取った。

 アリィのその顔は痛みで歪んでいるよりも不可解さで歪んでいるのだろう。なぜ攻撃が通じないのかなぜ攻撃が読まれているのか。

 あなたは知らない。

 あなたはわたしが見続けていたこと知らない。それはあなたが振り返らなかったからだ。だからどこまでも無限に進められた。

 痛みを感じない。それがあなただった。他人にも自分自身にも痛みを覚えないからこそどこまでも進めた。

 だが自分自身の痛みにだけ執着するようになったときあなたは堕ちた。そして私もあなたのように痛みを感じなくなっている。だから壊せる。このあなたの身体をそして私自身の心も壊す。もう痛くはないからこそ勇者を殺せる。

「ナキ、聞きたいことが」

「アリィ、頼みがある」

「なっなんだ」

「もう黙ってくれ。あんたはもう死んでいるんだ」

 見開かれたアリィの目を見ながら私は脚に強化の補助魔法をかけ跳び、その背後に瞬時に回った。

 卑小さが滲み出ている汚い背中がそこにあった。私の知らない背中がそこにある。

 だからその見たことのない背中の腰に足を……あの日のように、あの勇者アリィが腰を砕かれた時と同じように、最大限の魔力を用いて蹴りを入れた。

 また再びの音が聞えた。腰の骨が砕ける音とアリィの悲鳴が混じり合う音色が辺りに響いた。そして私は崩れいくこの男の首を腕をかけ絞めに入った。

 動けなくさせながらそのまま死へと導いていく。呼吸も出来ず声も発せられない。そうだ、お前の言葉はもう聞く必要はない。この世に残す最後の言葉すら与えない。

 その代りに私はその耳元にて語りかけた。

「あんたは昔に気合いが入っていない突きや蹴りは効かないと私に何度も言いましたね。本当にその通りですよ。いまのあんたの突きは気合がこもっていない。かつてあった使命感がこもっていないから痛くも何ともない。だから一度は敢えて受けたんだ」

 腕に補助の強化魔法をかけさらに力を入れる。だが声が聞こえるように調整はしている。腰を砕きこのキメの形に入った段階でこれで脱出は無い。だからこそギリギリまで語らないといけない。伝えたいことしかない。

「どうしてとかそんなこと思っていませんよね? 俺は見下されたとか俺は仲間に手柄を取られたとか俺はみんなに見捨てられたとか……個人的な恨みつらみだけしかないそんなハンパ野郎の攻撃なんて私に効くはずないでしょ。私は言いました。あんたはあの勇者アリィではないと。絶対にそれよりも弱いと。だからこうしてそれを証明しているわけなんですよ。そうであるから私があんたに負けるはずがない。負けてはならないんだ」

 腕の中ではもう抵抗感が急激に無くなっていき反射的なものだけになっている。自分の声が聞こえているのかなど分からない。けど私は語り続けないとならない。

「あんたが私を嫌ったり恨んでいることなんてどうでもいいことだった。勇者であり続けようとしていたことを求めていた私にとってはなんでもないことだ。あなたがいくら私を疎ましく思っても私ならあなたを無限に補助し続けられ使命に邁進させることができた。だが私は追放された。それでも私が願うことはただ一つ……あなたが力が衰えて休みがちになっても勇者であろうとしていること。偉大であろうとしていること。光りはどんなに小さく儚く微かであっても光であることになんら変わらず、それは、本物なんだ」

 私の腕は反射的に強くその身体を強く抱きしめた。必要はないのに、だけどそうする他に無かった。他にすがるものは無かったのだから。自ら失わせるからこそ抱きしめた。

「ただあなたがそうであることをやめた。自らの意思で光を消し世界に闇をぶつけるだけの存在になり下がった。勇者アリィは勇者のままで終わるべきだったんだ。そうではなくなったのなら、それはこの世に存在してはならないものだ。勇者であることを選べなかったあなたはここで終わりましょう、いや、もうあなたは死んでいたな。自分自身で手を下していた。既に、だが……それでも、さようなら」

 私は右手の指先に全魔力を集中させた手刀で以ってこの人の心臓を貫いた。だから勇者アリィは確かにここで死んだ。
 
 私が……いや、私たちが勇者を殺した。