勇者殺しの最強補助魔術師 「お前は追放だ!」と私に言ったロートル勇者が堕ちて魔王となる物語

 
 懐かしい声が聞えた。久しく聴いていなかった声であり、記憶のなかにしかない今はなき失われたものが甦ってくる。
 
 かつての荒々しくも自信に満ち溢れた背筋が伸び芯のある声、私を上から抑えつけてくる声そして抑えられていた声。

 しかしその声は徐々に弱まっていき腰が砕けた後は怯えを帯びることとなった。その懸命なる怒号は犬の鳴き声に似ていた。恐怖は容易に人に伝わり受け止める側はすぐに分かる。

 あの人の声はそういうものとなっていた。自分の身を守るための声、鳴き、涙声。声は死ぬ、関係性で以って変化しまたは絶える。

 だが今のは違う。これは私が知っている始めの声。私への第一声のそれと重なった。早まっていく心臓の鼓動を聞きながら私は前へと出ていくと、そこにはあの人がいた。

「会いたかったぜ……ナキ。てめぇがここでの仕上げになるわけだしな」
「勇者アリィ……何ですかその姿は?」

 声だけではなくその顔と姿は出会った時と同じだった。精悍そのものと言って良い真っ直ぐな背筋に力が漲りが胸板に満ち満ち、そして一目見て傲慢さと暴力が宿る表情、若さそのものがそこにあった。

「まっ色々あってな。そのおかげで元に戻れたぜ。まぁ返して貰ったといった方が良いな」

「……この状況ですと魔王の娘となにかあったと推測されますが、そうなのですか?」

「あーそうなるな。あの子と出会ってなそんで契約を結んでこうなったわけだ」

「そしてルッサとワカの隊を倒した、と」

「ああ、そうだぜ。あの生意気なお前の後輩はよぉ、念入りにいたぶってやったぜ。あいつは俺をはじめから役立たずの老人扱いしていやがったからよぉ前々からムカついていたしな。若い癖に俺を邪魔者扱いして見下していたからザマぁねぇぜ。他の連中も同じようにしてやったな。
 ワカの野郎もそうだ。あいつはバァンの腰巾着だったからよ前祝いとしてボコボコにできて面白かったなぁ、ああザマぁみろだ。この後あの俺の手柄を横取りした勇者長とやらをぶっ殺しにいくぜ。
 あとは俺を見捨てた馬鹿女とか他もろもろだ。なぁにいくらでも好きなようにするぜ。
 楽しい復讐タイムだ。元の強さを取り戻した俺に出来ないことはないからな。人生をやり直しってやつだ。今まで無意味なことをしてきたからな。取り戻した若さで無双するってことだ」

「……元の強さってなんです?」

「ああん? 見て分かんだろ? いまの俺だ、十年前の俺だ、力と技の融合が最高潮に達している時の俺、魔王を超える力を持っている時の俺、お前なら知っているだろ?」

「……知らない」

「はぁ? なに言ってんだテメェ? 俺のことはお前はよく知っているだろ? ムカつくからとぼけんな。面白くねーぞ」

「知らない。私はあんたなんか知らない。はじめて会ったといってもいいな。はじめまして」

「……ふざけてんじゃねぇぞテメェ。おちょってんのか? おい……何とか言ってみろゴラァ!」

「私はふざけてもおちょくってもいない。あんたは私の知っている人ではない」

 言った途端に頬への衝撃により私は後方にふっ飛んだ。

「ナキ君!」

 ロニの声が聞え遠ざかっていた意識を取り戻しながら私は体勢を整えながら着地した。どうやら一瞬で殴られたようだ。

「おっ条件反射で咄嗟に後ろに跳んだか。弱っちいお前はそれだけがお得意だったもんな。俺の攻撃を避けるのが精一杯でよ。攻撃を流すのは上手くなったがいまのはもろに喰らって痛いだろ? おいどうだ思い出したか? 俺の元の力の威力を。これでワタクシハシリマセンは通じねぇぞ?」

 口の中に広がる血の味とともに私は言った。

「……それでも違う。これならあの追放した際の一撃の方がよっぽどあんたらしかった」

「いい加減にしろ!!」