勇者殺しの最強補助魔術師 「お前は追放だ!」と私に言ったロートル勇者が堕ちて魔王となる物語

 
「あれはアリィのおっさんだ!」

 ルッサからの突然の通信にロニは混乱する。アリィがなんだというのか? 魔王の娘の話はどこにいった!?

「なに? 彼がどうしたの?」

「あの人が若返って俺達と戦っているんだ!」

「あなたは何を言っているの?」

 答えがまたもや混乱を呼ぶ。魔王と戦っているのではなく若返ったアリィと戦っている? 意味が分からない。全くもって不明だ。

「ルッサ! もっと分かるように言って!」

「クッ駄目か! こうなりゃやるしかねぇ! おいお前ら全員突撃しろ! 意地をみせろ!」
「来やがれ小僧どもがあああ!」

 絶叫と共に通信がそこで途絶えたが最後の笑い声はロニには聞き覚えがあった。昔一度だけ聞いたあの男の声と記憶が重なった。

 あの若々しい声、だけどももうそんな声は出せないはずだ。彼はいまはそういうものではなくなっていると聞いていたのに。すっかり元気のない老人みたいだと聞いていたというのに。

「総司令官! 魔王が移動し始めました。今度は西のワカ隊へと向かっています!」

 上空からの報告にロニは混乱しつつもワカ隊に通信を繋いだ。ということはつまり……

「ワカ隊長! 魔王がそちらに向かっています防御陣形で構えてください」

「なんだって!! ルッサ隊はどうしたんだ?」

「おそらくやられました。いま救護班を向かわせます。敵はかなり強敵です!」

「分かった! いま迎撃態勢をとるが、他に情報は無いか?」

「……ルッサはこう言っていました。勇者アリィが若返ったと。それが襲ってきていると」

「えっ? なんだそれ? 詳しく頼む。何もかもが分からない」

「僕にも分からない。だけどあの状況で彼が冗談や見間違いをするとは思えない。最悪のケースを考えると魔王の娘と勇者アリィが契約を結んで彼は魔王的な存在になったと。魔族の力によって若返ったと」

「そっそんなことがあるのか? 信じられないぞ」

「これはあくまで想像です。だから事実かどうかは分かりません」

「ぐぅうう……本当に若い頃の勇者アリィが相手だとしたら、魔王相手の方のほうがマシだぜ。魔王はまだ秩序のある闘い方をするがあいつはなぁ。何度か戦いを見たことあるが本当に滅茶苦茶で……おっあれか! 全員撃て!」

 発射される魔法の音と共に通信が切れ、それと同時にロニは指令部にいるものたち全員に告げた。

「ルッサ隊のもとに救援兵を出します。そして指令部を前進させます! 急いで!」

 直進方向にあるワカ隊及びにナキ隊との合流を図るべくロニは指示を出す。もしも想像が当たっていたとしたら敵が全盛期の勇者アリィだとしたら、確かにワカの言う通り考え得る限り最悪の展開となる。

 魔王討伐時での純粋な戦闘力において最強の勇者は誰かとインタビュアーが尋ねたら、当時の勇者たちは嫌そうな顔をしながら口を揃えてこう言ったそうだ。

「ダントツであいつだよ。アリィだ。だが一緒には戦いたくはない」と異口同音に言っていた。あまりそのテーマで論じたくはないのだ。

 よってこのテーマに関するランキングはいつも総合力といった抽象的なものとして語られがちとなる。そうすれば勇者アリィのランキングは良くて中の上または中の下とつまらないところに位置づけられるからである。

 ちなみにその総合力の1位は勇者バァンの隊となる。これは男同士のみっともないマウント合戦でもあった。誰が強いかうちの方がいいや俺の方が上だあいつは下だという議論は一番揉め事のもとだ。

 つまりそれほどなのだ。嫌々ながら認めざるを得ない本物さ。だから現役の勇者隊の中では上位のルッサの隊を一人で壊滅させることができたのだろう。

 ロニは焦る。マズいマズいマズいマズいもしもワカ隊で止められなかったら!

「ワカ隊? ワカ隊長答えて、ワカ! 駄目だ、出てくれない」

 ワカ隊も戦闘能力では勇者隊で上の方だ。今回は念には念を入れて戦闘部隊を三つも用意できたので戦いは余裕と思えた。しかしここに来て最悪の事態が起こっている。もしもワカ隊がやられたら!

「魔王移動! そっそちらに向かい出しています!」

 上空からの新たな通信にロニは慄いた。ワカ隊がやられた! こっちに来る! もう、おしまいだ。

「あっロニ総司令官でしょうか? こちらナキ隊です。なんだかずっと通信障害が起こっていたようでしたね。やっと繋がって良かった。こちらは戦闘終了後に現時点でしばらく待機後に後退をし始めていますが、それでよろしいでしょうか?」

 天祐の如き突然繋がった通信に対してロニは叫んだ。

「そっそれでいい! それでいいから急いで後退して平原で僕たちと合流して!」

「えっ? なにがあったのですか?」

「異常で非常事態よ! 指令部はそちらに向かっているから早く早く!」

「まさか魔王の娘が覚醒して魔王になったとか?」

「そのひとつ上よ! むしろそっちの方が良かったレベルなの」

「なんですそれ?」

「アリィ……あのアリィが魔王になっているってことみたいなの! あっ見えた! ナキくんその場で防御陣形で備えて!」

 思った以上に後退が進んでいたためにロニたちはナキ隊と合流した。

「ロニ総司令官、どういう意味の言葉だったのですか? よく分からないのですが」

「ハァハァ僕にだって分からないけど、これから分かるよ。どうやら彼はルッサ隊とワカ隊を壊滅させてこっちに向かっているようだ」

「そんな、二つの隊を!」

「どう? 全盛期の勇者アリィならそれが出来ると思う?」

「出来ますね……おつりがくるぐらいにね」

「明快な答えだけど最悪だ! そのおつりがここに来るよ!」

「総司令官! 魔王の動きがそちらの前方で止まりました!」

 上空からの通信が聞こえたと同時に声がした。

「ナキ! いるんだろ、後ろじゃなくて前に出てこい!」