勇者殺しの最強補助魔術師 「お前は追放だ!」と私に言ったロートル勇者が堕ちて魔王となる物語

 
 その時、上空を飛行中の魔術師に戦慄が走る。

「なんだこれは! 聞えるか総司令官! 大変だ魔王の娘の魔力を感知した、だがあり得ない。あれは魔王と同じレベルの魔力で、わっ東に移動しはじめた! どっどうしよう!」

 慌てふためく報告に対しロニは何も答えず息を呑みそれから通信魔法用いてルッサ隊に連絡を繋げた。

「ルッサ隊に告げます! 目標の魔王の娘がどうやら覚醒をしそちらに向かっています! その場で防御陣形を整え魔王の攻撃に備えてください!」

 ロニの指示にルッサの喉の奥は反射的に鳴ったが、すぐに答えた。

「なんと覚醒しちまったか、あいよ総司令官殿。早めに言ってくれて助かるぜ。だけどうちは攻撃が専門だから攻勢防御式しか取れねぇ。前に出てかなりドンパチやるわけだがその間に援軍は来れそうか?」

「分かりました。先ほどワカ部隊が敵の攻勢を撃退したと連絡があり前進しています。これから大至急援軍に駆けつけるように連絡をします」

「勇者ワカが来てくれるのなら頼もしいな。挟み撃ちの形なれば理想的になるぜ。あの、それでナキさんの隊は? 来れる?」

「彼はまだ抗戦中なのか通信が繋がらないの。そっちも終わり次第連絡をしてそちらに向かわせるからそれまで何とか持ちこたえて」

「了解! 熱くなってきたぜ、戦勝報告を待っていてくれ」

「御武運を祈る、では……ワカ隊、聞える! 大至急ルッサ隊と合流して。どうやら魔王の娘が覚醒したようなの」

「なっ! わっ分かったが、そんなことがあるのか? あまりにも想定外だ、なにがあったんだ?」

「その通りよ。まだ若すぎるしそんな気配は微塵にもなかった。でも実際に魔力探知で同レベルのものを感知してとのことです。間違いであればいいけどそうでない場合はかなりの激戦になると予想されます。ここは最悪の事態を想定して対応するしかない」

「わかった。急いでそちらに向かう。しかしなんでまた……なにか強力な触媒でもあったのか?」

「分からない、でも急いで。では御武運を祈るわ……次はナキ隊だけど、聞えますかナキ君? 応答を願います、もしもし……駄目だまだ繋がらないか。しっかしどうなっているのよこれ、いったい何が起きたの?」



「ルッサさん! 前方から誰か来ます!」

 前進していると先頭で周囲を見張っている隊員の声を聞きルッサは目を凝らす。

 たしかにゆっくりと誰かがこちらに近づいてくるようだ。

 男? 自分より年上そうなで背筋が真っ直ぐな格闘家みたいな身体つきだ。魔王の娘が覚醒したのがあれ? 違うよな?

 まさかその娘が目覚めて20代の男に成長または変化するはずがない。男の娘という言葉はあるがあんなガチガチな筋肉質で娘というにはマニアックだ。

 娘が覚醒したら男になるとか知らない世界のTSだ。少年が青年に変わるのと近いことかもしれないがこんな思考は何の意味もないとルッサは緊張から来る思考の混乱を収めた。

 謎の男だがそのうえ明らかなほどに異様な雰囲気を漂わせている。かなり、できそうだ。

「誰か!」

 ルッサは誰何した。魔王軍の残党ならそれでいいが一般人とかなら間違えて殺した場合は問題になる。もっともこんなところに一般人はいない。

 かといって敵一人でこちらの隊に立ち向かうのは自信があり過ぎる。いったい誰なんだ? なにをしにこちらに?

「よぉ……」
「えっ?」

 知り合い? というか知っている人の声がした。誰だ、とルッサは記憶を漁る。自分よりも少し年上でたくましい身体つきの格闘家の知り合いって、誰だ? 

「分かんねぇか?」
「いや、でも」

 再びの呼びかけの声にルッサは理解し思い出すも、しかしそんなわけがない。

 もしも可能性があればそれは……いやいやだが違う。あれはこんなに、強くはなさそうだ。例え似ているとしても別人なはずだ。もしくはナキさんの話の中でのあの人で……

「あっそ……分かんねぇなら、身体で教えてやるよ」

 背筋への戦慄とともに冷たい風が頬をかすめそれからルッサ達は仰け反った。今まで感じたことのない強い圧が掛かってくるのを感じながら彼らはみんな、跳びあがったその男が自分達に飛び込んでくるのを見るしかなく、そこからはまるで突然の嵐が襲い掛かってきたかのようだった。