忘れないまま恋をした

夕暮れの帰り道。

オレンジ色の空の下、直哉が立ち止まった。

「柚」

その呼び方だけで、胸がざわつく。

「俺、柚のこと――」

やめて。

言わないで。

「好きだよ」

世界が、静まり返る。

違う。

違う違う違う。

「無理」

反射だった。

「無理だから」

直哉の表情が固まる。

息が苦しい。

逃げ場がない。

「わたし、結婚してたの」

初めて、はっきり言った。

「今も、その人の奥さんのつもりなの」

喉が震える。

「その人は、もう隣にはいないけど」

それでも。

「私の中では、終わってないの」

言葉が途切れる。

「だから……好きとか、言われる資格ない」

自分で自分を刺しているみたいだった。

颯斗を守るためじゃない。

自分を守るためでもない。

まだ、手放せないだけ。

夕焼けの色が、やけに滲んで見えた。