女神アフディーの初恋

「……こいつが、」

 ベンが悔しそうに声を震わせます。

「こいつが、俺の薔薇を奪おうとしたんだ。せっかく、一番きれいに咲いてるやつを、崖まで行って摘んできたのに」

「嘘よ。ベンが私の鼻先に突きつけて、自慢するように馬鹿にしたからよ」

 メアリーが負けじと叫日ます。

「黙りなさい」

 パチン、と乾いた音が教室に響きました。女教師が教鞭で手のひらを叩いた音です。
 彼女は優雅に、しかし冷徹な足取りで二人に歩み寄ると、床に落ちた一片の花びらを指先で拾い上げました。

「わかりますか? 愛、とは。あるいは慈しみ、とは」

 彼女は独り言のように、しかし教室の隅々にまで届く鋭い声で語り始めた。

「それは、対象をあるがままに尊び、遠くから守り抜く、気高い自己犠牲の精神を指します。ベン、あなたは自分の欲望のために命を折り取り、メアリー、あなたはそれを独占するために力で奪おうとした。……滑稽なことです。あなたがたが『愛』だと思い込んでいるその衝動は、ただの野蛮な独占欲に過ぎません」