こんなに苦労する恋愛は君が初めてです。

キラキラと水面が光に照らされて輝いている。

人が多すぎることもないが、全く繁盛していない訳でもない。

真夏日に当てられた地面には流石にたっていられる気にはなれなくて、男2人で日陰に避難していた。


「いやぁ……まじで楽しみすぎない?水着姿」


「お子ちゃまめ」


鼻でフッと笑う幼馴染を突き落としてやろうかと思ったが甘い声が聞こえてきたので、仕方なく見逃した。


「お待たせ!」


人形のような姿の彼女は髪をお団子にして、淡いピンク色のフリルとリボンの付いた水着姿だ。

可愛いー!!!!!!!!!!!

後で写真沢山撮らせてもらわなきゃ。

チラと蘭を見ると硬直していた。

津調さんはハーフアップに蝶の髪飾りが付いていて、黒のワンピースに横がリボンでクロスされているタイプだ。

もちろん横は肌が見えている。



「さっすがに可愛すぎ」


「そうかな?えへへ……」


近寄り難い雰囲気を出す2人を遮るように姫芽がビシッと拳を空に突き上げた。


「よーし!遊ぶぞー!おー!!」


「おー!」
「おー」
「お〜!」


3人の掛け声と共に、律儀に準備体操をしてから冷たい水の中へと足を踏み入れた。

久しくプールなんてものに入っていなかったから不思議な気分だ。

ゆっくりと流されていく。

途中逆らおうとしてみるが、上手くいかず体が沈んでいった。

幸い小学生の頃までスイミングに通っていたので溺れはしない。

姫芽は浮き輪に乗りながら楽しそうにこちらを見ていた。


「中々上手くいかないね〜」


「まぁね。思ったより強いみたいだっ!」
「うわっ」


泳いで浮き輪に体重をかける。

一瞬沈んでもう一度浮いた。

もう〜とでこぴんされ、けらけらと笑う。

2人の方を見てみると蘭が浮き輪にしがみつき津調さんが付いている紐をグイグイと引っ張っている。


「まっきー実は泳げるんだよ。特にクロールが凄いんだ」


「へぇ……あんまりイメージなかったな」


きゃっきゃっと楽しむカップルばかり見ていたせいか、姫芽がムッとする。

可愛い。


「嫉妬?」


「違うもん」


その時遠くが何やら騒がしいことに気づいた。

皆の視線の先を辿ると上空に巨大なバケツが水を貯めている最中だ。

しかももうそろそろ溢れそう……。


「やばくね?」


「あの水の量は流石に……」


怖気付く俺達にに対して姫芽達は非常に楽しそうな声を上げている。

お願いだから落ちてくるな!!!

と俺は今まで信じもしなかった神様に頼った。

だがそんな願いも虚しく、ゲリラ豪雨のごとく頭上に冷たい水が降り注いでくる。

朝からセットした髪の毛が台無しになった。


「あっはははは!!!」


いつの間に浮き輪から落ちていたのか、顔が半分ぐらいしか見えていない姫芽が目に映った。

彼女は平均よりも身長が低いから溺れないか心配になる。


「姫芽」


「ん?」


不思議そうな顔をする姫芽から浮き輪を外して体を持ち上げる。

そのまま座らせるようにして下ろした。


「わっ、ありがとう」


「溺れたら困るし」


一筋の雫が陶器みたいな肌を滑り落ちる。

全身が濡れているせいで普段可愛らしさしか身に纏っていない彼女がちょっと色っぽくなっていた。

慌てて目を逸らすと苦々しい顔の幼馴染がひっくり返った浮き輪にしがみついている。



「水飲んじゃった……」



「浮き輪逆だよ」


噛み合っていない会話にフッと笑ってしまった。

入ってきた階段から出て、今度はどれに乗ろうかと相談しあう。

蘭と姫芽は一旦休憩するらしく津調さんとスライダーに乗ることになった。

この展開はちょっとどころか大分想像していなかった。

何をどう話せばいいのか分からず無言が続く。


「あの二人のこと心配ですか?」


「えっ!?なんで!?」


予想外の質問に肩がビクッと上がる。


「いえ、上の空になってるからそうなのかなぁと」


ふふっと愛らしく笑う津調さんにあいつが惚れたのにも納得がいった。

階下に見える2人は恋人には見えず、姉弟のように思える。


「まぁ正直言ってそうかも。姫芽と俺が付き合い始めてからも告白の嵐は止まらないし」


姫芽はよくモテる。

一日に余裕で50はいくし、俺と付き合ってからはさらに増えた気もする。

その度にいつか振られるんじゃないと考えずには居られない。


「私もあるのかなぁ……人気者を恋人にすると大変ですね」



熱い風が髪を揺らす。



「ほんとにね。あっ津調さん、俺も真希ちゃん……さんって呼んでもいいかな?今のままだとなんかよそよそしいなぁと」


「私も思ってました。じゃあ実鳥くん、よろしくお願いします」



華奢な手を差し出してくる。

それを握って少し振った。

係員に呼ばれ2人用の浮き輪に乗る。

真希ちゃんが前で俺は後ろだが、めっちゃ怖いから降りたくなってきた。

浮き輪についてる取ってをがっしり掴み、滑り出す。

勢いはどんどん速まり「高いなぁ」と呑気に考えていたテッペンに着いてしまった。

喉の奥がヒュッと鳴る。

ザバァンという音ともにプールへと突っ込んだ。


「おかえり〜どうだった?」


「楽しかった!!!」


目をキラキラ輝かせる彼女にデレデレな彼氏。

係員の人に浮き輪を預けたらドンっと何かがぶつかった。


「だいじょ」
振り返ると姫芽だった。


「階段のとこでさぁ随分親密そうだったじゃん?」


ぷくーっとハムスターみたいに頬を膨らませている。

つついても空気は逃げていかない。


「モテすぎる恋人を持つと大変だなって話してただけだよ」



「ふーん……」


まだ機嫌は良くないらしい。

どうしようか視線を彷徨わせていると焼きそばのいい匂いが漂ってくる。


「何食べたい?奢るよ」


「食べ物で釣らないでよ〜先に言っとくけどあたしから絶対に振らないから!」


背中をドスッと押されるが、体格差がありすぎてビクともしない。

心を見透かしたのか語気を強めて念を押してくる。

チラリと2人を見ると同じようなことをしていそうだ。



「そりゃありがたいな。余計な心配が無くなる」


「当たり前でしょ!みーくんは心配性なんだから……」


ボソッと呟いたセリフは聞き取れなかった。

特に反応を求められなかったので姫芽を背後に付かせながら2人の元へ行く。

体重をかけられるが気にせず歩く。

蘭と真希ちゃんがこちらを見た。


「2人は何話してたわけ?」


プールサイドに腰をかける。

姫芽が手を伸ばしてきたのでヒョイっと抱き上げて座らせた。

俺を避けて顔を見合わせる。


「「今後の人生」」


「何話してんだよ」


打ち合わせでもしたように全く同じセリフと動きを披露する。

それにフッと笑ってしまった。

まだまだ心配は尽きないけど今は大丈夫そうだな。

暑さと冷たさが混じりあった空気を纏いながらプールサイドに立った。