ノイズの向こうできみは歌う

「髪、ライブ中、邪魔になんねぇ?」
「今日はアリーナだから大丈夫だよー。あんま暑かったら上げるかもしれないけど」

そういえばそうだった。

大抵のドームはそうであるように、東京ドームでのライブはスタンドは座席が狭いが、アリーナはそうでもない。
人気アイドルなのによくアリーナ席取れたなと思いながら、俺は山都由真の一歩後ろをついていった。

人気男性アイドル、予想どおりだが女ファンが多い。
ちらほら男の姿も見えるけど、やっぱり目立ってる。
そのどれもが彼女に連れてこられた彼氏って感じだ。
俺もそんな風に見られてるんだろうな……。
いや、山都由真とは付き合ってるわけじゃねぇけど!

俺は開場待ちで隣に並ぶ山都由真をちらりと盗み見た。
スマホをいじってる山都由真はこちらに気づかない。

まぁ顔は可愛い方だと思う。
目はぱっちりしてるし、小柄だし。
うるさいのはつまり明るいってことでもあるから、こういうやつはモテるだろう。
っていうか実際学校で男に睨まれることもある。
山都は誰にでも分け隔てなく接するから、嫌がらせとかはされないけど。

なんでこいつは俺と一緒にいるんだろう。
いや、バンドのためか。
それにしたって、最近はバンドやろうバンドやろう言われない。
俺も山都由真と一緒にいるのが当たり前になってきた。

まぁ、悪くはない。かな。

「あっ、この曲。振りがあるらしいけど知ってる?」

唐突に声を上げた山都にびくっとした。

俺はいまなにを考えた?
気のせいだ気のせいだ気のせいだ!

「ジョージ? どうかした?」
「なんでもない! なに!」

イヤホンを差し出してくる山都由真は不審そうに俺を見ていた。
気にするな、気にしないでくれ。

俺はイヤホンを受け取ってはたと気づく。
これってカップル聞きなのでは?

そう思ったのに、山都由真の方を見るともう片方のイヤホンは山都由真の耳には刺さっていなかった。
俺は黙って片方のイヤホンを自分の耳に刺す。

大丈夫。
気にしてない。



アイドルのライブなんて初めてだったけど、なかなか良かった。
入り口でリストバンドみたいなのを渡されて、なんだこれと引っくり返してたら山都由真に「ライブ始まったらびっくりするよー」と楽しそうに言われ、実際始まったら驚いた。
ブロックごとに、そのリストバンドがいろんな色に光ったのだ。
アイドル=ペンライトと思ってたけど進化してるんだな。

照明もすごかったし、案外アイドルもバカにできないかも。

「はー楽しかった! やっぱさすがLODだね! 踊りたくなっちゃう」

そう言って山都由真はくるりと回る。

俺と山都由真はライブの興奮冷めやらぬまま、帰り道を並んで歩いていた。

家は同じ方向なのだ。
もう真っ暗だし、夜道を女子一人で歩かせるのはまずいだろう。
山都由真相手でも、家まで送るくらいはする。
リュー先輩が怖いし……。

「おまえ、バンド一筋なのかと思ってた」
「うん? まぁそうだけれどね。やるのはバンド一択かな。でも、楽しかったでしょ?」