ノイズの向こうできみは歌う

だから俺のことを知ってたのか。
いきなりムジカの話をされたときは、焦ってひどい態度を取ってしまったけど、冷静に考えれば出演者か観客だ。

あいつらじゃない。
山都由真があれを見てたわけじゃないんだ……。

「その態度じゃ、すれ違ってたことも気づいてないでしょー?」

俺は無言でウインナーを咀嚼した。
校舎の方から賑やかな声が聞こえる。

「まじか」
「まじまじー」

全くもって気づいてなかったわけだが、山都由真は楽しそうだ。

正直あの頃のことはあまり思い出したくない。
全部捨てて、中学生活を謳歌しようと思ったのだ。
バラ色の、なんて望まないから、地味に目立たず静かに暮らす。
そう思ってこの中学に入学してきた。

なのに今ではこのザマだ。
最初は心底嫌だったのに、慣れてしまった自分が怖い……。

それでもこれ以上、交流関係を広げたり音楽をもう一度したりするつもりはない。

「あっそういえばさー、LODのチケットあるんだけど、ジョージ一緒に行かない?」
「は?」
「リューと行こうと思ったんだけど、模試があるらしくてさー。あ、LOD知らない? アイドル、ダンスユニット」

いや、それは知ってるけど……。

歌って踊れる男三人ユニット。
中高生女子に人気らしい。

「いや、おまえバンド以外も好きなの?」
「うん好きー。っていうかライブが好きなの。ライブハウスが一番だけど、ホールもドームも楽しいよね!」

なるほど、根っからのライブ人間か。

俺はライブハウスでのライブしか経験がないけど、会場やアーティストによってライブは本当に違う。
テレビとかでペンライトを振ってる観客を見ると不思議な気分になる。

「ってことで明日は一時に駅前ね! じゃねー」
「は!?」

俺に紙切れを押し付けると、いつの間に食い終わったのか、山都由真は弁当包みを持って走っていってしまった。
手元に目をやると紙切れの正体はチケットだった。

「行くなんて言ってねぇし……」

一人取り残された中庭で、俺の呟きだけが零れた。

予鈴が鳴り響く。

「やっべ!」

俺は慌てて飯をかき込んで、教室へと走った。

   *

決して行きたかったわけではない。
ただ、チケットがもったいなかっただけだ。
客入りが悪いってのは、苦い思い出だからな。

「おっはよー! いい朝だね!」
「もう昼だ昼」

相変わらずの山都由真だ。

私服の山都由真を初めて見た。
薄い黄色のブラウスにデニムのショートパンツ、黒のエンジニアブーツで、山都由真のイメージぴったりだ。
髪はいつもどおり下ろしている。